2017年10月 6日 (金)

ふんがあ~

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何を言っているのか分からない人というのがいる。

その理由は様々で、滑舌が悪いとか、ぼそぼそしゃべる癖があるとか、話し方に独特の癖があるとか、なまりがあるとかが考えられるが、中には原因がよく分からない人もいたりする。

それが気心が知れた人なら、何か言われて聞き取れなくても、「え?」とか「何?」と聞き返すことも出来るが、目上の人だったり、仕事先の担当者だったりした場合、何と言っているのか必死に聞き取ろうとして非常に疲れることになる・・・・・・。

それでも、前後の話の内容などから、聞き取れない部分を推測しながら、何とか話を進められる場合はいいのだが、八割方言っている事がよく分からないというつわものが相手だと、もはや通訳でも付けてもらわないと完全にお手上げである。

私はこの前、路線バスの中で、そんなつわものと出くわした。

近年、路線バスの運転手はマイクを付けていて、「発車します、おつかまり下さい」とか、「右へ曲がります」、「左へ曲がります」、「揺れますのでご注意下さい」、「停車するまで座席から立たないで下さい」など、よくしゃべるようになった。

以前はマイクは付けていたものの、ほとんどそれを使うことはなく、運転手の鼻息だけがマイクを通して「フガフガ」と聞こえていて、非常に耳障りだったものだ。

運転手がしゃべる内容は主に乗客の安全に配慮したもので、恐らくバス会社がマニュアル化したのだろう。

この日、私は自宅近くの停留所からバスに乗り込んだ。

バスは珍しくガラガラで私はラッキーと思いながら座席に座った。

すると、間もなくして、マイクを通して運転手の息づかいがスピーカーから聞こえてきたので、「発車します」のアナウンスがあると思っていたのだが、次の瞬間に聞こえて来たのは、非常にゆっくりとした口調で、「ふんがあ~」という意味不明な一言だった。

私は「ふんがあ~?今、ふんがあ~って言ったよね?」とバスに揺られながら、心の中で自分に問いかけていたが、運転手がそんな意味不明な言葉を発するはずがないと思い、何かの聞き間違いだったのだろうと結論付けた。

そして、バスは赤信号で停車し、エンジンを一時停止した。アイドリングストップというやつだ。

そして、信号が緑に変わり、再びエンジンが入り、バスが再び動き出そうかという時に、スピーカーから運転手の息づかいが聞こえて来たので、「発車します」のアナウンスがあるのかと思いきや、聞こえて来たのはやはりゆっくりとした口調の「ふんがあ~」だった。

いったい、この人は何と言っているのだろう。

他の乗客はこのアナウンスを聞いて不思議に思わないのかと思い、周囲を見回してみると、新聞を読んでいる人、スマホをいじっている人、携帯ゲーム機でゲームをプレイしている人などがいたが、誰も車内アナウンスを気にしている人はいない様子だった。

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そうこうしているうちにバスはカーブの多い道にさしかかろうとしていた。

ここは「カーブが続きますのでご注意下さい」というアナウンスが入るだろうと予想していたところ、カーブの手前で予想通り、スピーカーから運転手の息づかいが聞こえて来た。

私はまた「ふんがあ~」だろうな~と思いつつ、その時を待っていた。

すると、スピーカーから、「んん~っ、あっ!あんがあ~」と聞こえて来た。

一瞬、もだえているのかと心配になるような口調だった。

私は「んん~っ、あっ!」で、思わず運転中に何をしているのかとギョッとしたが、その後の「あんがあ~」を聞いて、意味も分からないのになぜか安心した。

どう考えても、ここでは「カーブが続きますのでご注意下さい」という意味合いのことを言っているはずなのだ。

ということは、前半の「んん~っ、あっ!」が「カーブが続きますので」で、後半の「あんがあ~」が「ご注意下さい」に当るということなのか。

私は今回はさすがに他の乗客も車内アナウンスを気にしているのではないかと思い、周囲を見回してみたが、先ほどと同様で誰一人気にしている様子はなかった。

恐ろしいほどの無関心である。

走行中のバスの車内で運転手が「んん~っ、あっ!」などともだえているというのに、「おや、どうしたのかな」とは思わないのだろうか。

これなら、スピーカーからいびきが聞こえていたって、事故が起きるまで誰も気付かないだろう。

よく見たら運転手がサルなのに普通に運転していたから気付きませんでしたという世界である。

その後もバスは順調に運行を続け、運転手も要所、要所で、「ふんがあ~」だの「あんがあ~」だの言っていたが、不思議なことにそれを気にしている者は誰もいなかった。

皆、自分の世界に没頭していたり、友人と話し込んでいたりで、車内アナウンスなどどうでもいいBGMと化していた・・・・・・。

そんな中、バスが停留所に停車し、一人の女性が乗り込んで来た。

その女性はスラリと背が高く、金髪のロングヘアーの美しい外国人だった。

彼女はICカードで支払いを済ませると、運転手に何か英語で話しかけていた。

彼女には申し訳ないが、「ふんがあ~」に英語で話しかけても、納得の行く答えが返ってくるはずがない。

何しろ彼と同じ国籍である日本人の私でさえ、彼が何と言っているのか分からないのだ。

それ以前に英語が全く通じない可能性だって十分考えられる。

仮に外国人の彼女がかたことの日本語を話せたとして、日本語で彼に話しかけていたとしたら、下手に日本語を知っていることが裏目に出て、彼の発する言葉に余計に混乱させられることだろう・・・・・・。

運転手に気を使って、金髪の外国人女性はかなりゆっくりとした口調で英語を話していた。

運転手は「フン、フン」とうなずきながらそれを聞いていたが、私は本当に分かっているのか、かなりあやしいと思っていた。

ところが、次の瞬間、衝撃的なことが起こった。

何と運転手は流暢な英語で、ペラペラ、ペラペラと何かを説明し始めたのだ。

金髪の外国人女性もかなり驚いている様子であったが、最後はにっこりと微笑むと、「サンキュー」と言っていたのが分かった。

この運転手、こんなに流暢な英語を操るのに、なぜ日本語が「ふんがあ~」なのか。

英語はスラスラと早口で滑舌もよいのに、なぜ母国語の日本語になると、スロー再生のようなしゃべり方になり、どこの国の言葉なのかも分からなくなるのか。

もはや、謎としか言いようがない・・・・・・。

バスが発車する直前、私はもしかしたら彼が、「発車します、おつかまりください」とハキハキとした滑舌のよい話し方でアナウンスするのではないかと少し期待していたが、スピーカーから聞こえて来たのはやはり例の「ふんがあ~」だった。

私はなぜかちょっと安心していた・・・・・・。

(画像上は里山の谷戸で咲くツクバトリカブト、画像下は成虫になったツチイナゴ)

2017年9月23日 (土)

昆虫博士と達人技

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私は小さな頃から昆虫が好きだった。

特に小学生の頃は、ありとあらゆる昆虫を飼育していた。

しかし、何でもかんでも捕まえて来て飼育していたという訳ではなく、事前に昆虫の飼い方の図鑑を読んで、この昆虫を飼うにはどのくらいの大きさの飼育ケースが必要で、何匹くらいをいっしょに飼えるか。

そして、エサは何が必要で、それは簡単に入手出来るかといったことをちゃんと下調べをして、きちんと飼うための環境を整えてから、お目当ての昆虫を野原に捕まえに行っていた。

図鑑を読み込んでいたので、小学生とはいえ虫に関する知識はかなりのもので、難しい専門用語も知っていた。

しかし、私にとってはそれが専門用語であるという認識がなかったため、理科のテストの解答に専門用語を使って書いてしまったり、友人との会話で普通に専門用語を散りばめて話していたりで、自分が思っても見ないような所で周囲を困惑させていた。

このため、先生やクラスメートたちからは、「昆虫博士」の称号をもらっていた。

何年生の時だったかは忘れたが、担任の先生がクラス全員に賞状を作って渡すというイベントがあって、何を表彰されるかは賞状をもらうまで分からないということになっていたのだが、クラスメートからは私のだけは「絶対、昆虫博士に決まっている」と、何日も前から「満場一致で決定!」と太鼓判を押してもらっていた。

実際に賞状をもらって見てみると、予想通り「昆虫博士で賞」と書かれており、なんだか事前に知らされていたようで、何の感動も覚えなかったのを、今でもはっきりと覚えている・・・・・・。

「俺は○○で賞だった」とか「私は○○で賞だったよ」と盛り上がっている友人たちが非常にうらやましかったが、クラスの中で「博士号」をもらったのは、どうやら私だけのようだったので、そこだけは自慢してもよかろう。

私が子供のころは近所にちょっとした空き地があって、原っぱや小さな雑木林がまだかろうじて点々と残っていたので、様々な昆虫が近場に生息していた。

このため、当時は捕虫網を持って歩いている子供をよく見かけたものだが、開発が進んだ現在では、そんな光景は近所では全く見なくなってしまった。

なんとも寂しい限りである・・・・・・。

昆虫と身近に接する機会が減ったせいか、最近では昆虫を怖がる子供もよく見かける。

トンボが目の前をスーッと飛んで行っただけなのに、「うわ~ぁ!」と叫びながら、後ずさりしている小学生や、集合ポストになぜかアゲハチョウが止まっていたことあって、それが怖くて郵便物を取れずに突っ立っている中学生も最近見た・・・・・・。

私の小学生時代には考えられないような光景である。

少なくとも私のクラスメートの男子たちは、「昆虫に興味がある」とか、「興味がない」というのはあったが、昆虫を怖がるという者は一人もいなかった。

これがスズメバチや毛虫とかだったら、また話は別であるが・・・・・・。

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そんな訳で、誰よりも昆虫好きな小学生時代を過ごしていた私だが、唯一好きになれない昆虫がいた。

ゴキブリである。

ゴキブリは自宅という最も身近な環境に生息している昆虫であるにもかかわらず、私にとってはハエと並んで何の魅力も感じない昆虫だった。

魅力がないだけなら放っておけばよいのだが、ゴキブリは何の前触れもなく人の前に現れ、高速移動からの突然の方向転換で我々を翻弄するのだ。

その素早さと言ったら、まるで赤い彗星のシャアのごとくで、予測不可能な方向転換は正にニュータイプ、その驚異のスピードには恐怖すら感じさせられる。

ゴキブリは我々と同居しているにもかかわらず、人に害をもたらす昆虫ということで、発見と同時に退治しなくてはならない。

ところが、ゴキブリの登場はいつも唐突であるため、手元に殺虫スプレーなどあるはずがなく、大慌てで近くにある新聞紙や折込チラシを筒状に丸めて、ゴキブリと対峙することがほとんどである。

しかも、家族から「早く早く!」などとせかされて、慌てて作ろうとするため、うまく丸まらなくて途中から丸めなおしたり、丸めている最中に落としてしまい、また一から丸め直すこともしばしばあった。

そんなことをしているうちに、当のゴキブリはタンスの後ろなどに隠れてしまい、ようやく叩き棒が出来て臨戦態勢が整ったころには、どこに行ったのか分からなくなっているのだ・・・・・・。

そんな訳でウチではゴキブリ用殺虫スプレーを買ってあるにもかかわらず、使う機会に恵まれず、常に新品の状態をキープしていた。

我家でゴキブリ用殺虫スプレーを使わない理由はじつはもう一つある。

ウチにはゴキブリ退治の達人がいたのである。

父はゴキブリを退治させたら右に出るものはいないというくらい、部屋に出現したゴキブリを確実に退治していた。

驚くべきことに勝率は100パーセントに限りなく近かった。

父のゴキブリ退治の方法は、ゴキブリが出現したのを確認すると、そっと立ち上がり、ゴキブリを刺激しないように、ゆっくりと平行移動を開始する。

そして、ゴキブリが止まる瞬間を見極めて、まるでカメレオンが舌を伸ばして獲物を捕らえるかのように、サッと右手を繰り出し、素早くゴキブリを捕らえるのだ。

そう、父はゴキブリを素手で捕まえるのである。

父の右手には翅をつままれて、動けないゴキブリが足をバタつかせてもがいている。

その様子を見せられた私と母は、いつも「ギャァ~!」と絶叫しまくりながら、父から出来るだけ距離をとるのだ・・・・・・。

父曰く、「殺虫剤を取りに行ったり、叩き棒を作ったりしているうちにゴキブリはいなくなっちまう。さっさと手で捕まえた方が確実に退治出来るだろう」と言う。

ごもっとも、お説ごもっともなのだが、決して誰もがまね出来ることではない。

そもそも、ゴキブリを素手でつかんだりして、気持ち悪くはないのだろうか。

父は手を洗えばいいだけのことと言うが、そういう問題ではないと思う。

そして、ここからは更にまねを出来る人が激減すると思われるのだが、父は捕まえたゴキブリを紙に包んで捨てるのかと思いきや、何と何と、ゴキブリの頭をわざわざもぎ取ってから、紙に包んで捨てるのである・・・・・・。

もはや正気の沙汰とは思えない。

私と母は狂ったように、「ギャ~、ギャ~!」と叫びまくることになるのは言うまでもない。

父が言うには、以前そのまま紙に包んで捨てようとしたら、逃げられてしまったことがあったそうで、それから頭をもいでから紙に包むことにしたのだとか・・・・・・。

私と母は「それはあまりにも残酷じゃないか」と言ったのだが、父は「頭をもがずに紙に包んだとしても、どうせ紙に包んだ後に潰すんだからいっしょだろ」と言う。

ごもっとも、お説ごもっともである。

殺虫スプレーを使おうが、叩き棒で叩こうが、頭をもぎ取ろうが、結局は結果は同じことになる。

父は「確実にやらなきゃ、俺たちが病気になるかもしれないんだぞ」と遠い目をしてつぶやいた。

私は我家のゴキブリ用殺虫スプレーは、当分新品のままだろうと思った・・・・・・。

(画像上は里山で今の時期よく出会うオオカマキリ、画像下は毎年彼岸の一週間前くらいから咲き出す彼岸花)

2017年9月10日 (日)

「よう!」

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ちょっとお茶を買いに立ち寄ったコンビニで雑誌をパラパラ見ていたら、私は不意におならがしたくなった。

周りを見回すと、私と同じように数名の客が雑誌を見ていた。

ここで他の客に気付かれないようにおならをすることに私はかなりの自身があったが、音はしなくても、万が一、匂いが発生した場合、ごまかすことは出来ないだろう。

そこで私は雑誌コーナーを離れ、商品棚の裏へ向かった。

そこは、文房具や日用品が置かれているコーナーで、幸いなことに一人も客はいなかった。

私は念のため、通路を中央付近まで進んでから、おならを放つつもりでいた。

予定の場所までたどり着き、私は少しずつ下腹に力を入れて行った。

おならというものは少しずつ下腹に力を入れて行き、肛門をゆっくりと緩めて行けば、ガスはスーッと抜けて行き、ほとんど音を出さずに放出出来るものなのだ。

私はこの技術を小学四年生の時に習得した。

長年技術を磨いて来て、成功率は限りなく百パーセントに近かったこともあり、私は失敗することなどこれっぽっちも考えていなかった。

ところが想定外のことが起きた。

おならを雑誌コーナーでしないでしないで我慢していたため、ガスが肛門の入口付近まで下りて来て、停滞して溜まっていたのだ。

分かりやすく言えば、パンパンに膨らんだちっちゃな風船が肛門の内側でスタンバイしているようなものだ。

こうなると、相当細心の注意を払って肛門を緩めて行かないと、ガスは「ブーー!」と一度に放出されてしまうだろう。

音を立てずに放屁するにはかなり難易度が高い状況になってしまった。

しかし、今さら店の外へ出て行く余裕はない。

私は自分を信じてトライするしかなかった。

私は周囲を気にしながら、少しずつ下腹に力を加えて行き、肛門を少しずつ緩めて行った。

予想通り、ガスはもう肛門の入口付近でスタンバイしていたので、抜けて行くガスの量を少しずつコントロールすることは困難だった。

「これはまずいかな」と思った瞬間、私の背後から「よう!」という大きな声がした。

私は誰かに声をかけられたのかと思い振り返った。

すると、私の少し先に商品のガムテープを手に取って見ている男性がいた。

しかし、いくら考えても知らない顔だった。

男性も私の方をポカンとして眺めていたので、どうやら私が「よう!」と声をかけたのかと思っているらしい。

背後にそれらしい人間がいないところを見ると、商品棚の向こう側にいる誰かが、知り合いを見つけて声をかけただけなのかもしれない。

しかし、それにしては全く話し声が聞こえて来ない。

それにどう考えても、さっきの「よう!」という声は、私の背後から聞こえて来た。

それも真後ろからだ。

しかし、私の後ろには誰もいなかった・・・・・・。

「もしかして、幽霊?」

しかし、白昼堂々と幽霊があんなに大きなはっきりした声で、「よう!」などと声をかけるものか。

そんなことを考え始めると、何だか自分の背後に見えない誰かがいるんじゃないかと気になって、何もない空間に手を伸ばしてみたり、手で払ったりしていたら、先ほどのガムテープの男性が少し引いているのが分かった。

少し頭の中を整理しよう。

「よう!」という声は私の真後ろから聞こえて来た。

しかし、私の後ろには誰もいなかった。

少し先の離れた場所にガムテープの男がいたが、見知らぬ顔で声の主ではなさそうだった。

では、先ほどの「よう!」という声は何だったのか。

「よう!」と聞こえはしたが、もしかして人の声ではなかったのか。

人の声ではなかったとすると、いったい何の音だったのか。

あの時、私の背後でいったい何が起きていたのか。

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少し記憶の糸を手繰り寄せてみよう・・・・・・。

そうだ、私はあの時、おならをコントロールすることに必死になっていたのだ。

そして、「これはまずいかな」と思った瞬間、「よう!」という大きな声が背後でしたのだ。

あの時、私は確かにおならをしたはずだ。

ところが、「よう!」と声をかけられ、後ろを振り返って、いったい誰に声をかけられたのかを確かめることに夢中になっていて、おならのことなどすっかり忘れていた。

あの時はどう考えても、「よう!」という人の声にしか聞こえなかったが、いくら確かめてみても、私の背後には誰もいなかった。

誰もいなかったということは、人の声ではなかったと考えるのが自然だろう。

ところが、「この場所で他に大きな音がする可能性がありそうなものは?」と考えて、あたりをきょろきょろとさがしてみるが、不思議なことにそんなものはどこにも見当たらない。

冷静になって考えてみると、人の声以外に大きな音がする可能性があるものが一つだけあった。

私のおならである。

様々な可能性を引き算して行くと、もうそれしか考えられなかった・・・・・・。

あの、「よう!」という声は、私の尻が発した「声」だったのだ。

それにしても、おならがあんなにもはっきりと言葉を発したのを私は初めて聞いた。

決して大げさなことを言っているのではなく、あの時「よう!」と出たおならは誰が聞いても人の声だったと思う。

それくらい、レベルの高い「よう!」だったのだ。

おならが「よう!」と出てくれたおかげで、おならをしたことを周りの人に悟られずにすんだな~などと考えていたら、私は何だか無性におかしくなって来た。

必死に笑いを堪えながら、コンビニに入った目的であるお茶を、半泣きになりながら無事に購入すると、私は逃げるようにそそくさと店の外へ飛び出した。

帰りの道中、何度か頭の中で勝手に「よう!」が再生され、私は歩道で数回爆笑し、その後も顔を奇妙にゆがませながら、歩き続けることになるのだった・・・・・・。

もはや、不審者を通り越して、変質者に近かったと思う・・・・・・。

(画像上はナンテンハギの花、画像下は羽化して間もないアカボシゴマダラ)

2017年9月 3日 (日)

馬場

前回はアシスタントのぴかちゅう♀の驚異の能力について書かせてもらった。

今回はそのエピソード2になる。

この日、私は仕事が一段落してぴかちゅう♀と仮眠を取っていた。

私は蒸し暑さで寝苦しくなり、もう少しで目が覚めそうなところまで来ていた。

すると、どこからか、「アポー、アポー」と奇妙な音が聞こえて来るではないか・・・・・・。

「この音は一体なんだろう。もしかして、動物の鳴き声?それとも、何か空気が漏れている音?まさかガス漏れじゃないだろうな。だとしたら、このまま二度と目が覚めないなんてことになるんじゃ・・・。でも、そのわりにガス臭くないな・・・。ということは、とりあえずガス漏れじゃないな。よかった、よかった」などと、夢うつつの状態であれこれ思考をめぐらせていると、自分が眠りからゆっくりと覚めていくのが実感出来た。

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脳を使ったせいか、すっかり目が覚めて、「アポー、アポー」の正体を確かめるべく、体を起こして音のする方を見やると、何のことはない、ぴかちゅう♀のいびきではないか・・・・・・。

相変わらず面白いいびきをかくやつだ。

ふと見ると、ぴかちゅう♀の顔がいつもより平べったくなっている。

ぴかちゅう♀は眠りが深ければ深いほど、普段立体的な顔が重力に逆らわず、平べったくなる傾向がある。

ぴかちゅう♀はこういう平たい顔をしている時ほど、その驚異の能力を発揮しやすく、正に実験に最適な瞬間なのである。

それでは、せっかくのチャンスなので、ぴかちゅう♀の夢と現実の狭間へ入り込んでみるとしよう・・・・・・。

私は「アポー、アポー」といびきをかいているぴかちゅう♀のかたわらに座ると、高く透き通るような声を意識して、「ジャイアントォ~?」と問いかけてみた。

なぜ、高く透き通るような声かと言えば、ぴかちゅう♀の夢と現実の狭間へ入り込むには、まるで、夢の中の住人が語りかけているような印象を与えなければいけないと思ったからだ。

しかし、あろうことか私は、高音で歌っているような、自分のバカっぽい声に、思わず「プッ!」と吹き出しそうになってしまい、あわてて口をつぐんでこらえた。

これでは夢の住人どころか酔っ払いの鼻歌である。

あぶない、あぶない、こんなことでぴかちゅう♀を起こしてしまっては、せっかくの実験が水の泡である。

少し間を置いて、今にも爆笑しそうな自分を落ち着かせる。

幸いなことに、ぴかちゅう♀は全く気付いていない様子で、「アポー、アポー」と相変わらず面白いいびきをかいて眠っている。

私は先ほどの失敗を踏まえて、今度はまるで妖精がささやくように、静かに「ジャイアント~?」と問いかけてみることにした。

ところが、声が小さすぎたのか、ぴかちゅう♀は全く気付かず、気持ち良さそうに、「アポー、アポー」といびきをかいて眠っている。

そこで今度は気を取り直して、ぴかちゅう♀の耳元で「ジャイアント~?」とささやくように言ってみた。

すると、ぴかちゅう♀は眉間にしわを寄せ、あからさまに嫌そうな表情になり、いびきがピタリと止まった・・・・・・。

「まずい、これは起きてしまったか」と思ったのだが、目は閉じたままで、表情も固まったままだったので、少しの間待ってみることにした。

すると案の定、少しずつ表情が戻って行き、再び口元が力なく開いて来て、「アポー、アポー」が再開となった。

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私は一度起こしかけてしまったので、これがラストチャンスかと思い、慎重に先ほどより距離を取り、空気の流れに自分の声を乗せ、ぴかちゅう♀の耳元へ流してやるようなイメージで、「ジャイアント~?」と問いかけてみた。

すると、ぴかちゅう♀のいびきがピタリと止まり、唇をセロテープで半分塞がれているような言いかたで、「人が気持ちよく寝てるのに何で起こすんだ」的なことを言って来た。

これは万事休すかと半ばあきらめかけていたところ、5~6秒後には再び「アポー、アポー」が始まった。

ものすごい睡眠への執着心と言えよう。

これならば再度トライしても大丈夫そうだ。

しかし、ここは焦ってはいけない。私は2~3分ほど待って、ぴかちゅう♀の顔が十分平たくなったのを確認してから、ぴかちゅう♀の深層心理に語りかけるように、「ジャイアント~?」と耳元にささやいてみた。

すると、平たい顔をしたぴかちゅう♀の唇がもぞもぞと動いたかと思うと、次の瞬間、こう言ってのけたのだ・・・・・・。

「馬場だろうよ」

寝ているにもかかわらず、何とふてぶてしい言い方だろうか。

まるで、「ジャイアント」と言ったら、「馬場」に決まっている。

「そんなことは、この私はとっくの昔からお見通しなんだよ!」といっているかのような口ぶりだった。

私は思わず吹き出しそうになって、両手で口を押さえて、笑いを押し殺しながら立ち上がった。

早足で部屋を出ようとしていたら、笑いがこみ上げて来て、下腹に力を入れてそれをこらえていたら、思わず「ブーーッ!」とおならが出て、結局吹き出してしまったが、ぴかちゅう♀はそれでも起きずに馬場と化していた・・・・・・。

(画像上は野菊の一種のユウガギク、画像下は草地にいる大きなバッタ、ショウリョウバッタ)

2017年8月27日 (日)

コク

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私のアシスタントのぴかちゅう♀は、熟睡しているにもかかわらず人と会話が出来ると言う類稀な能力を持っている。

その驚異の能力を引き出した実証実験をいくつかご紹介してみよう・・・・・・。

ある日、ぴかちゅう♀が寝息を立て始めたので、じっと観察していると、うちで飼っているネコのまるちゃんがトコトコやって来て、横向きになって寝ていたぴかちゅう♀の顔の前にお尻を向けて座った。

しばらくの間、まるちゃんはぴかちゅう♀の顔の前に座ってぼーっとしていたが、おもむろにお座りの状態からふせの状態に体勢を変えるとくつろぎ始めた。

まるちゃんはしばらくふせの状態でくつろいでいたが、眠くなって来たようでついに丸くなって寝てしまった。

ここで注目すべきは、丸くなって寝ているまるちゃんのお尻が、ぴかちゅう♀の顔のまん前に位置している点だ。

近くまで行ってよく見てみると、丸くなって寝ているまるちゃんの肛門が、ちょうどぴかちゅう♀の鼻の穴の直前までせまっている。

まるちゃんは生まれつき尻尾がとても小さく、梅干大の尻尾がちょこりと付いているだけなので、尻尾がじゃまをすることがなく、見事なまでのフィット感を実現している。

これはチャンスだ。こういう瞬間を見逃してはいけない。

私は早速、寝息を立てて寝ているぴかちゅう♀のかたわらに座ると、ぴかちゅう♀の夢と現実の狭間へ入り込むべく、「何かいい匂いがしませんか?」と静かにそっと語りかけてみた。

しかし、ぴかちゅう♀の眠りは相当深いようで、特にこれといった反応もなく、「クカー、クカー」と気持ち良さそうにいびきをかいて眠っている。

そこで私はもう一度、今度は少し大きな声で、「何かいい匂いがしませんか?」と語りかけてみた。

すると、ぴかちゅう♀のいびきがピタリと止まり、眉間にしわを寄せて少し迷惑そうな表情を見せる。

これはよくない兆候だ。ぴかちゅう♀を起こしてしまっては何にもならないのだ。

あくまでも、ぴかちゅう♀の夢と現実の狭間へ入り込まなければ意味がない。

そこで私はぴかちゅう♀が再び寝息を立て始めるのを気長に待つことにした。

しかし、幸いなことに、ぴかちゅう♀は一分もしないうちに、再び「クカー、クカー」といびきをかき始めた。

そこで、賢明な私は今度はやや控え目に、「何かいい匂いがしませんか?」と語りかけてみた。

すると、今度は嫌な表情一つ見せることなく、ぴかちゅう♀のいびきがピタリと止まった。

私はぴかちゅう♀の口がもぞもぞと何かを語り出すのではないかと期待して、じっとその時を待ったが、残念ながらぴかちゅう♀にそれ以上の反応は見られなかった。

すると、空気を読んだのか、ぴかちゅう♀の顔の前で丸くなって寝ていたネコのまるちゃんが、もぞもぞと動いておもむろに体勢を変えると、いい具合にまるちゃんの肛門がぴかちゅう♀の鼻っ面に見事にフィットした。

まるちゃんはまるで、「これでどうだい」と言っているような表情で私を見た。

私は親指を立てて、「いいね!」のサインをまるちゃんに5~6回送り、感謝の気持ちを示した。

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しかし、それでもぴかちゅう♀は全く気付いていないらしく、相変わらず「クカー、クカー」といびきをかいて眠っている。

もちろんその方がこちらとしては好都合なのは言うまでもない。

そこで、私はもう一度、ぴかちゅう♀に、「何かいい匂いがしませんか?」と静かに語りかける。

すると、ぴかちゅう♀は今度はすぐに反応を示し、やや不機嫌そうな表情になり、「何で人が寝てるのに話しかけるのさ」ともぞもぞと言った。

しかし、起きてしまった訳ではなく目は閉じたままで、半分寝ている状態のため、ろれつが回らないようなゆる~いしゃべりかたをする。

これはいつものことで、ぴかちゅう♀の夢と現実の狭間へ入り込むことが出来たことを意味する。

私はこの瞬間を待っていたのだ。

そこで私は間髪を入れず、「何かいい匂いがしませんか?」と畳み掛ける。

すると、「何でお尻の匂いなんて嗅がすの~、臭いよ~」と、まるで私が自分のお尻の匂いを嗅がせているかのような口ぶり。

しかし、弁解などしている暇はなかったので、立て続けに「でも、臭いけどコクがあるだろ?」とちょっと深みのある問いかけをしてみた。

すると、次の瞬間、ぴかちゅう♀の口から意外な答えが返って来た。

「う~ん、まあ、コクはあるけどさぁ・・・」

お尻の匂いを嗅がされたことについては不服ではあるが、その臭い匂いの中にあるコクについては、悔しいけれど否定は出来ないといった口ぶりだった。

私は爆笑しそうになるのを必死でこらえつつ、冷蔵庫の冷たいお茶を一杯飲み干し、気持ちを落ち着かせた。

再び、ぴかちゅう♀の元へ戻ると、ぴかちゅう♀はもう、「クカー、クカー」といびきをかいて眠っていた。

私はコクがあると言われたまるちゃんのお尻の匂いを嗅いでみるべきか一瞬迷った・・・・・・。

(画像上はカメラ目線のオオカマキリ、画像下は林縁で咲くセンニンソウ)

2017年8月20日 (日)

オーレイ!

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小学生の頃、私は日直の日が憂鬱で大嫌いだった。

日直は朝の会、帰りの会の号令をはじめ、黒板の文字を消したり、配布物を配ったり、担任の先生から雑用を頼まれたりと、一日を通して何かと仕事があった。

当時私は生き物係をしていたのでクラスの誰よりも朝早く登校し、一時間目が始まる前までに、クラスで飼っていたセキセイインコとカエルとカメの世話を済ませなくてはならなかった。

セキセイインコは二羽飼っていて、一日分のフンがたまった新聞紙を交換して、エサの殻を吹き、飲み水を変えるのだが、今思えば一番手がかからなかったのがセキセイインコだった。

カエルは当時近所にあった小さな池で誰かが捕まえて来て、大きな飼育ケースに四、五匹飼っていた。

カエルの飼育ケースは砂利で作った陸地と、水を張った部分を作ってあって、フンやエサの食べ残しで汚すので、定期的に砂利を洗い、毎日水を換える必要があった。

ちなみにカエルのエサの昆虫を捕って来るのは、カエルを捕まえて来た者たちの担当と決められていた。

カメは一匹しかいなかったが、カエルと同様に水が汚れると、悪臭や病気の原因となるので水は毎日換えていた。

更にカエルとカメの飼育ケースはたまにスポンジで洗ってやらないと、ケースの壁面がじょじょに深緑色になって行き、何を飼っているのかさえ分からなくなり、みんなに不気味がられることになる・・・・・・。

学校に人より早く登校して生き物の世話をしているのに、朝の時間だけでは終わらず、昼休みに飼育ケースを洗ったりすることもしばしばあった。

生き物が好きだからと言う理由で選んだ生き物係だったが、正直こんなに激務だとは思ってもみなかった。

そんな激務の生き物係に日直の仕事は余計だと私は常々思っていた。

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そんなある日、私は生き物係の仕事と日直の仕事を掛け持ちへとへとになっていた。

残る仕事は帰りの会終了後の「きりつ、きをつけ、れい」の号令だけだ。

担任の先生の話も終わりにさしかかり、私は「これでようやく帰れる」と少しホッとしていた。

しかし、それと同時に、いや~な緊張感に包まれている自分がいることにも気付いていた。

私は子供のころ、人前で発言したり、号令をかけたりすることがすることがどうも苦手だったのだ。

「それではこれで帰りの会を終わります」という先生の言葉を待って、私は少々緊張しながら、「きりーつ!」と号令をかけた。

私は緊張していたが声が上ずったりせずに、思いのほかうまく言えた自分に少し驚いていた。

私はこの勢いのまま、「きをつけ、れい」も言ってしまいたかったのだが、こういう時に限ってもたもたしているやつが必ずいて、私はイライラしながら「早く立て!」と心の中で思っていた。

そう思っていたのは私だけではなかったようで、担任の先生が「早く立ちなさい!」と私の気持ちを代弁してくれた。

私は「KとMめ、早く立たないから怒られるのだ、ざまあみろ!」と思いながら全員起立したのを確認し、「きをつけ!」と号令をかけた。

私は緊張しているにもかかわらず、何と素直な「きをつけ」が口から奏でられたのだろうと感動していた。

よくスポーツ選手が「緊張感を味方に付ける」とか言っているのは、きっと、こういうことなのだろう。

この分なら「れい!」もあっさりクリア出来るに違いない。

私は「きりつ、きをつけ」の完成度が思いのほか高かったので、ここは高得点を狙うためにも、「れい」はより美しい発音の「れい」でなくてはならないと思い始めた。

そして、私がいま正に「れい」と言おうとした瞬間、誰かが筆箱を落とし、鉛筆やら消しゴムやら、定規やらが、床にじゃらじゃらと散乱した。

おっちょこちょいのYがそれを片付けている間、皆がだれて来ているのが分かった。

Yが筆箱を片付け終わり、再び「きをつけ」をして、「れい」と言おうとしたところで、今度はAとTが話をしていて、担任の先生が「もう終わりなんだからちゃんとしなさい!」と注意し始めた。

私はもうこのまま「れい」と言ってしまいたかったので、口の形を「れい」の「れ」の形にしたままスタンバイしていた。

私は今度こそ何があっても、「れい」と言ってしまおうという強い決意のもと、「れ」と発音しようとしていた。

ところがまたしても、先生に注意される者がいて、私は「れ」の形の口を少しすぼめた。

そうしないと、よだれがこぼれ落ちそうだったのだ。

この時、私は舌の形は「れ」の発音をスタンバイし、口はよだれが出ないように先ほどより少しすぼめていたので、「れ」というよりも「う」に近い状態だった。

先生は「じゃあ、気を取り直して、きをつけ!」まで言って、私に目配せをした。

私はここぞとばかりに「れい!」と大きな声で言った。

ところが、うっかり口をすぼめたまま、「う」の口の形で「れい」と言ってしまったため、「う~れい!」などと言ってしまい、まるで「オーレイ!」と言っているようで、一同大爆笑となった・・・・・・。

先生も涙を流して笑っていたので、よほど面白かったに違いない。

クラスで飼育しているセキセイインコが、口癖の「何で?」を連発して、「何で?何で?何で?」と言っていたが、そんなこと私の方が知りたいよ・・・・・・。

(画像上は葉っぱで休憩中のアマガエル、画像下は草の陰に隠れていたフキバッタ)

2017年8月13日 (日)

バックヤードのネズミ

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私は以前ホテルで働いていたことがあった。

一般にはホテルで働いている人は、皆「ホテルの人」と思われているようだが、私の働いていたホテルは、規模の大きなホテルだったので、様々な業者がホテルから支給された制服を着て、それぞれの現場を受け持っていた。

ホテルにはお客さんの入る「営業スペース」と、関係者以外立ち入り禁止の「バックヤード」があって、ホテルで働くほとんどの人はバックヤードが仕事場だった。

お客さんの入る営業スペースで仕事をしている人はほんの一握りで、ホテルのフロントと、ベルボーイと、飲食店の従業員くらいだろうか・・・・・・。

ホテルはセキュリティや衛生管理も厳しく、朝出勤して従業員入り口より入ると、まず長い手洗い場があって、そこで入念な手洗いと消毒をさせられる。

たかが手を洗うだけなのに、写真付きのマニュアルまでちゃんとあって、その手順通りに丁寧に手を洗わなければいけない。

見張りの人間もちゃんといて、「めんどくさいからスルー」は絶対に出来ない。

手洗い場の先には入退館の受付があって、ここで身分証明にもなっている入館許可証を見せてはじめて先に進める。

バックヤードの1Fは「デッキ」と呼ばれていて、業者のトラックが納品のために入るスペースに面していた。

デッキはトラックの排ガスが流れ込み、非常に空気が悪いうえ、魚の納品の際に、生臭い水や氷をこぼしてあることがしょっっちゅうで、いつも嫌な臭いが漂っていた・・・・・・。

そのうえ、水がこぼれていることに気付かずに、その上を歩いてしまい、豪快に転倒するものが続出していた。

ツルリと転倒しただけでもかなり恥ずかしいのに、転倒した人はパンツまでびちょびちょになり、今日一日生臭いニオイに悩まされることになるのだ・・・・・・。

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ホテルに出勤して来たほとんどの人は、まず地下の最も深い場所にあるロッカー室へ向かう。

ロッカー室に向かうには地下の長い長い廊下を歩いて行くのだが、私は初めてここを通った時はたいへん驚いた。

バックヤードの廊下は、豪華で綺麗な営業スペースからは想像も出来ないくらい、質素な作りになっていた・・・・・・。

しかも、壁などは納品業者が何度も台車をぶつけてボロボロで、穴が開いて向こう側が見えている場所さえあった。

きっと、大きな地震でも来たら、確実に崩壊するだろう・・・・・・。

更にバックヤードの廊下は電気料金削減のため、蛍光灯は所々しか点いていなくて、廊下は異常なくらい薄暗かった。煌々と電灯の灯る夜道の方がよほど明るく感じる。

バックヤードの廊下は経費削減の影響をもろに受け清掃費も出なかったので、白いピータイルは地色が全く分からないほど真っ黒になっていて非常に汚かった・・・・・・。

後で聞いた話では、ホテルというのはお客さんの入る営業スペースには金をかけるが、従業員しか入らないバックヤードには、異常なくらい金をかけないものだという。

バックヤードの廊下はいくつかの調理室と下処理室に面していて、ここで作った料理をホテルのレストランや、飲食店に運ぶルートにもなっていた。

調理室や下処理室から共用廊下に出る際は、本来は履き物を履きかえることになっているのだが、従業員は面倒くさいのか、これを誰一人守っていなかったため、廊下は油汚れでべとべとになっていた・・・・・・。

調理室からカートに並べられた美味しそうな料理が出て来て、油汚れで真っ黒になっている、ホコリまみれの汚い廊下でスタンバイされているのを見ると、間違ってもここのレストランや飲食店には入りたくないと思ったものだ。

テレビや雑誌では綺麗なロビーや客室しか紹介されないが、それを支えているホテルの裏側がこんな状態だとは、きっと誰も想像出来ないだろう・・・・・・。

いつだったか、薄暗いバックヤードの廊下を歩いていたところ、何やら黒い塊りが向こうからスーッと走ってきたことがあった。

私の少し前を歩いていた飲食店のお姉さんがそれに気付き、「キャー!」と血相を変えてこちらに走って戻って来る。

お姉さんは気が動転している様子で、私の目の前まで来ると、「ネズミよ、ネズミ!!」と叫ぶと、何かをこぼしたあとに足を取られて、ツルリと滑って見事な尻餅をついた。

お姉さんが尻餅をついた尻を「痛い痛い」とさすっている間にも、「ネズミ」と言われた黒い塊りはスーッとこちらに近づいて来ていた。

黒い塊りは確かにネズミくらいの大きさで、それらしい形もしていたが、どうやらそれはネズミではなさそうだった。

お姉さんは尻餅をついた尻がよほど痛かったらしく、なかなか立ち上がれず、私にお尻をさすりながら、「ネズミはどうした?」と聞いて来た。

それはお姉さんの尻にぶつかって止まっていたので、そのように伝えると、お姉さんは尻の痛いのも忘れて、すくっと立ち上がると、「やだ、やだ、あっちやって!」と素っ頓狂な声を上げた。

お姉さんが「ネズミ」と言っていた黒い塊りは大きなホコリの塊りだった。

掃除をしていないバックヤードの廊下には、このような大きなホコリの塊りがあちこちにあって、空気の流れに乗ってスーッと動くことがよくあったのだ。

翌日、お姉さんに尻の具合をたずねると、幽霊のような顔をして「蒙古斑が出来た・・・」とポツリとつぶやいた・・・・・・。

(画像上はせせらぎで出会ったハグロトンボ、写真下はコバルトブルーの翅が美しいムラサキシジミ)

2017年8月 6日 (日)

ナイスショット

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その日、私は電車に乗って帰宅中であった。

座席は開いていなかったが、立っている人はまばらで、それほど混んでいるという印象ではなかった。

駅を二つほど通過したあたりになって、私は左の鼻の穴に何やら異物感を感じていた。

何かゴミでも吸い込んだのかと思い、気になって鼻をつまんでみると、確かに何か硬いものが鼻の中に入っているのが分かった。

しかし、電車の中で「チーン!」と大きな音を立てて、鼻をかむのもどうかと思い、とりあえず最寄の駅に着くまで我慢することにした。

ところが、電車にガッタン、ゴットン揺られているうちに、異物感はムズムズ感に変わって行き、私は三回連続で大きなくしゃみをした。

ど派手な三連発であったため、周りの乗客にジロリと見られたような気がして、私は小さく縮こまっていた。

大きなくしゃみの三連発をしたというのに、鼻のムズムズ感は一向に治まらず、私はまたくしゃみをしたくなって来た。

私はこれ以上、周囲の注目を浴びたくなくて、ほんの数秒のうちに「何とかくしゃみを回避出来ないか」ということについて、目まぐるしく思考をめぐらせていた。

その結果、くしゃみの原因を取り除けばいいことに今さらながら気付いた・・・・・・。

くしゃみの原因となっているのは、左の鼻の穴にある異物だ。

これを取り除いてしまえばいいだけの話なのだ。

最寄り駅に着いてからと思っていたが、私は仕方なく鼻をかんでしまうことにした。

私はカバンに入れてあったティッシュを取り出そうと、右手をカバンに入れてティッシュをゴソゴソと探し始めた。

ところが、その間も鼻のムズムズ感は一向に治まらず、遠くの方からものすごいスピードで「くしゃみをしたい感じ」が疾走して来るのが分かった。

「これはまずい、このままではくしゃみが出てしまう」と焦りまくった私は、次の瞬間、何を思ったのか、突発的に右の鼻の側面を押さえて、左の鼻の穴から思いっきり空気を「フン!」とばかりに吹き出していた。

ところが、吹き出したのは空気だけではなかったようで、鼻に詰まっていた異物がものすごい勢いで飛び出して行ったのが感覚で分かった。

その証拠に次の瞬間には、もう左の鼻の穴の異物感はきれいさっぱり無くなっていた。

その結果、鼻のムズムズ感はすっかり解消され、私は何とも晴れ晴れとした気分になっていた。

何はともあれ、私は特大のくしゃみをして、周囲の注目を浴びずに済んだことにホッとしていた。

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それにしても、あの鼻の異物感はいったい何だったのだろうか。

私の鼻の穴にいったい何が入っていたと言うのか・・・・・・。

そして、左の鼻の穴から、ものすごい勢いで発射された異物はどこへ飛んで行ったのか・・・・・・。

鼻の穴に入っていたくらいの小さなものだから、どうせ見つかるわけがないと思いながらも、私は自分の鼻の穴に何が入っていたのか無性に知りたくなって、キョロキョロとあたりを見回した。

私は足元のあたりを一通り見回してみたが、特にそれらしきものは見当たらなかった。

もし、仮にあったとしても、鼻の穴に入っていたものだし、小さすぎて見つけるのは極めて困難だろう・・・・・・。

私はあきらめて床からそっと視線を上げた。

「ん?」

今、何か気になるものが視界に一瞬入った気がする。

私はもう一度ゆっくり視線を下げて行った。

「あ!?」

すると、私の斜め前方に立っているおばさんが片手に下げている紙袋に何かがひっついているのが分かった。

それは某有名デパートの紙袋で、中には某有名デパートの包装紙に包まれた菓子折りのようなものが二つ入っていた。

何かがひっついていたのは幸運にも紙袋の方で中身の方は無事であった。

私は何がひっついているのか、うすうす気付いてはいたが、念のためよく目を凝らして見ることにした。

すると、それは紛れもなく大きな鼻くそであった。

それは今までに見たこともない、びっくりするほど巨大な鼻くそであった。

その鼻くそは半分はカチカチに乾燥していたが、半分は軟らかい二段階構造になっていた。

全部乾燥していたら、あんな所にくっついたりしなかったろうに・・・・・・。

それにしても、本当にあんな巨大なものが、私の鼻の穴に入っていたのだろうか。

もし、あれが本当に私の鼻の穴に入っていたとするなら、相当キツキツの状態で入っていたに違いない。

そんな巨大な二段階構造の特製仕様のロケットを、試射もなしにぶっつけ本番で発射し、おばさんの排他的経済水域ぎりぎりに着地させるのは、どう考えても至難の技である・・・・・・。

そもそも、私はあれが自分の鼻の穴を飛び出し、おばさんの紙袋に着地した瞬間を見ていないのだ。

私はあの鼻くそはその大きさからして、相当鼻の大きな人が放ったものに違いないと思うことにした。

しかし、見渡せど、見渡せど、そんなに鼻の大きな人は、どこにも見当たらないのだった・・・・・・。

私はおばさんからそっと数歩離れた・・・・・・。

(画像上は草地で咲くキンミズヒキ、画像下はテングタケの幼菌)

2017年8月 1日 (火)

カブトムシ飼育

私が小学生の頃、近所に「季節の昆虫」を売っている八百屋があった。

「季節の野菜」や「季節の果物」を扱う八百屋で、なぜ「季節の昆虫」を売っていたのか定かではないが、当時私は何の疑問も抱かずに、店先の昆虫を母にねだっていた・・・・・・。

子供たちに一番人気があったのは、やはりカブトムシであった。

カブトムシは夏休みの少し前あたりに幼虫で入荷し、店先の一番目立つ場所に山のように置かれていた。

カブトムシの幼虫はかなりの大きさに生長するので、当時「ハチミツビン」と呼ばれていた寸胴で大きなビンに、エサの昆虫マットといっしょに入れられて売られていた。

カブトムシの幼虫は店頭に並べられて二週間もすると早くも蛹になっていた。

これはどうやらエサ交換をしなくても成虫が見られるように、出荷の際にもうすぐ蛹になる大きな幼虫を選別して入れていたからのようだ。

私は「これを夏休みの自由研究にするから」とか何とか言って母をそそのかし、幼虫の入ったビン二個と、蛹の入ったビン二個をまんまと手に入れほくそ笑んだ。

じつはカブトムシの幼虫は大変な大食いで、卵から育て始めるとエサ交換を何度もしなくてはならない。

幼虫が大きくなると、大サイズの飼育ケースいっぱいの腐葉土なんて、あっという間に食べてしまう。

しかし、八百屋で購入したビン入り幼虫は、うちに連れて来て間もなく蛹になり、何の手間もなく成虫へと変態した。

成虫になったカブトムシは運よくオス二匹、メス二匹で、私はこの年、2ペアのカブトムシを育てることになった。

私は夏休みの間中、カブトムシの飼育観察を続け、四匹のカブトムシの天寿を全うさせた。

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秋になりカブトムシのいなくなった飼育ケースを片付けようと、中に敷いてあった腐葉土を取り出していたら、何やら白くて丸い小さな玉が、腐葉土の中からたくさん出て来た。

米粒よりも小さなその白い玉はカブトムシの卵であった。

私は当時、こんなに簡単にカブトムシが卵を産んでくれるとは思っても見なかったので、

狂ったように喜んでいた。

そして、今思えば、この瞬間から、私のカブトムシ飼育繁殖生活が始まったのだった・・・・・・。

カブトムシの幼虫の飼育は意外と簡単で、腐葉土をいっぱいに入れた飼育ケースの中に、幼虫を投入して放っておくだけだった。

ただ、気をつけないといけないのは、エサ切れと乾燥しないように霧吹きをかかさないことだ。

カブトムシの幼虫のエサは腐葉土なのだが、カブトムシの幼虫は大変な大食いなので、ちょっと観察をおこたると、あっという間に腐葉土は半分ほどの量に減って、小さな小判型をした幼虫のフンでいっぱいになってしまう。

私は大切なカブトムシの幼虫を死なせてはいけないと、勉強をする間も惜しんで、毎日観察をかかさず、エサの腐葉土がフンだらけになる前に、園芸店に新しい腐葉土を買いに行くようにしていた。

しかし、私はカブトムシの飼育繁殖を始めて三年目あたりから、ひと夏に50~60頭ちかいカブトムシをかえしていたので、幼虫を飼育しているケースも、特大サイズのものが5~6個あった。

もはや業者である。

このため、幼虫が大きくなって来ると、園芸店に腐葉土を買いに行く回数も増えて行き、おこずかいは次々と腐葉土へ変わって行った。

ここまで来ると、カブトムシを育てていて、楽しんでいるんだか、苦しんでいるんだか分かりゃしない。

きっと、園芸店の店員は、しょっちゅう腐葉土を買いに来る、小学生の男の子を不思議に思っていたに違いない。

普通、一般の家庭では腐葉土なんて、花を植えたりする時に使うくらいだから、大人だってこんなに頻繁に買いに来ることはないはずだ。

その小学生の男の子は花の種や苗はいっさい買わずに、自分の胴体よりも大きな、18リットル入りの腐葉土の袋を抱えて、台車に乗せてそそくさと帰って行くのだから、不思議に思われても仕方あるまい。

「しょっちゅう、腐葉土を買いに来る小学生の怪」などという、都市伝説になっていないことを、今さらながら祈るのみだ・・・・・・。

(画像は里山の雑木林で出会った大きなカブトムシ)

2017年7月27日 (木)

パンツ男

私の家の近所にいつもちっちゃなビキニのパンツを干してある家がある。

ビキニのパンツと言っても、女性用の色っぽいやつを想像してもらっては困る。

前がこんもりとした、男性用のビキニブリーフのことだ。

私的にはビキニブリーフなんて、ムキムキのボディビルダーがポージングを決めているところか、パンツ一丁のちゃらいダンサーがチップを要求している下品なシーンしか思い浮かばない・・・・・・。

近所にこんなものをはいている人間がいるということは、ある意味衝撃である。

ところで、私はビキニブリーフなんてはいたことがないので分からないのだが、そもそも、こんなに小さくて、パンツの役割をはたしているのだろうか?

歩いているうちに、じょじょにパンツがずれていって、「いつの間にか中身がベローンと全部出ちゃってました」なんてことはないのだろうか?

自分は絶対にはかないであろうビキニブリーフなのだが、もし、万が一はいたときのためのシュミレーションをし始めると、心配で心配で夜も眠れなくなる・・・・・・。

杉下警部ではないが、「細かいことが気になる僕の悪いクセ」といえよう。

まあ、そんなことはどうでもよい。家の近所に話を戻そう・・・・・・。

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なぜかそのパンツはいつも3着そろえて、物干し竿の真ん中に堂々と干してあった。

まるで、「見てくれ」と言わんばかりである。

そのパンツはいつ見ても無地で、「赤、黄、緑」などの派手な色ばかりだった。

思わず「信号機か!」と突っ込みたくなるのは私だけではあるまい。

このため、道を歩いていると、嫌でも目に留まることになる。

そこのアパートはバス通りに面していて、近くにスーパーや病院もあって、人通りがかなり多い場所にある。

きっと、多くの人がこの派手でちっちゃなパンツを目撃しているに違いない。

道行く人はこのこのパンツを見ていったいどう思っているのだろう。

たのまれてもいないのに、思わず街頭インタビューを買って出たくなるというものだ。

私的にはこんなに小さなパンツをはく男性がいったいどんな人間なのか前々から非常に気になっていた。

私はこんなに小さなパンツをはく人間は、競泳選手のような体形をした若い男性に決まっていると勝手に想像していた。

ムキムキのボディビルダーや、パンツ一丁のちゃらいダンサーが、近所に住んでいるとは到底思いたくないが、競泳選手のような細マッチョな男性なら、どこにでもいそうな気がするではないか。

恐らく多くのかたが先入観からそう思われるのではないだろうか。

しかし、それはあくまでも想像でしかなく、実際にどんな人間があのパンツの持ち主なのか見たことはないので、その予想が正しいかどうかは分からない・・・・・・。

私があのアパートの物干し場で、初めて例のパンツを目撃してから、早いものでもう一年以上が経つ。

しかし、不思議なことに私は、今まで一回もパンツの持ち主を見たことがなかった・・・・・・。

都会では隣に住んでいる人の顔も知らないというくらいだから、近所とはいえ家から数十メートルも離れていれば、それも当然のことかもしれない・・・・・・。

あったこともない人の家のピンポンを押して、「物干し場のパンツの持ち主を確かめに来た」などと、たずねて行くのもおかしな話だ。

「ようこそいらっしゃいました。上がってお茶でも」などと歓迎される訳はなく、通報されたって文句は言えまい。

私は偶然の出会いに期待して、気長に待つことにした。

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そんなある日、あのパンツ男の家の前を通りかかると、何とパンツを干していないではないか!?

別に驚かれるようなことではないと思われるかもしれないが、私はかつて雨の日以外では、この家の物干し場にパンツが干していなかった日というのはあまり記憶にない・・・・・・。

パンツ男は部類の洗濯好きのようで、他に洗濯物がない日でも、必ずパンツだけは洗濯して干していた。

そのパンツ男がパンツを干していないということは、よほどの理由があるに違いない。

「もしかして、熱でも出して寝込んでいるのでは?」と一瞬心配したのだが、よくよく見れば家から物干し場に出る窓が全開になっている。

そして、奥から鼻歌を歌いながら、派手なパンツを片手に現れたのは、どうやら私が会いたがっていた「パンツ男」その人のようだ。

パンツ男はもはや何の曲だか分からないような、へたくそなうなり声のような鼻歌を歌い、ごきげんにパンツを干し始めた。

衝撃的だったのは、パンツ男が短パン一丁で上半身裸、しかも、つるっぱげだったことだ・・・・・・。

しかも、パンツ男は想像していた「競泳選手のような若い男」とはほど遠く、中肉中背のくたびれたおっさんだった。

パンツ男はいつも通りパンツを三枚干し終えると、中途半端に出た腹をぼりぼり掻きながら、部屋の奥へ消えて行った。

私はパンツ男に、「ビキニブリーフをはきたいのなら、もうちょっとシェイプアップしてからにしたらどうかね?」と言ってやりたい気分でいっぱいだった。

ちなみにこの日のパンツは、「ピンク、オレンジ、パープル」であったことを付け加えておきたい・・・・・・。

(画像上は里山の林縁で咲くヤマユリ。画像下は木の幹に溶け込んでいるニイニイゼミ。どこにいるか分かるかな?)

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