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2017年7月23日 (日)

事務的なおなら

あれは蒸し暑い夏の夜のことだった。
当時、小学生だった私は、いつものように両親と一緒に川の字になって寝ていた。


普通、川の字というと、子供が真ん中と相場が決まっているが、うちはちょっと違っていて、私が窓側で、母が真ん中、父が奥の順番だったと思う。


私はあまりの暑さに目が覚めて、持っていたタオルで額の汗を拭っていた。


そして私は二度三度、寝返りをうって、再び寝ようと努力していたのだが、何だか下腹のあたりが妙に張っている。
どうやらガスが溜まっているらしい。


しばらく寝付けず、何度か寝返りを繰り返していたところ、私は急におならがしたくなった。


幸いなことに、父と母はいびきをかいてぐっすりと眠っている。
今ならおならをしても誰にも気付かれないだろう。


私はおならをすればガスが抜けて、気持ちよく寝られるようになるだろうと思い、下腹に力を入れて、ちゅうちょなく思いっきりおならをした。


私はガスの量からして、相当大きな音がすると踏んでいたのだが、なぜかそれは思っていたほど派手な一発にはならなかった。
例えるなら、「事務的に尻の穴から自然放出されたおなら」という表現がぴったりだろうか。


私は下腹の重苦しい張りを解消するためにも、「ブーーゥーッ!」と、気持ちいいくらいの勢いでおならをしたかったのだが、なぜかそれはガスの量のわりには無音だった。


「プスーーッ」とガスが抜けて行く時に、開いた肛門がなぜか妙に熱く感じる気の抜けたようなおならとなっていた。


しかし、この一見地味な事務的なおならが、じつはとんでもないパワーを秘めていることに、私たちはこの時まだ気付いていなかったのだ・・・・・・。

 

Photo

事務的なおならが空気中に放出されて、10秒ほどが経っただろうか。


それまで、いびきをかいて寝ていた父が、突然、「ンガァ!」だか「グハァ!」だかと奇声を発し飛び起き、血相を変えて「窓を開けろ!」と騒ぎ出した。


母と私は何が起きたのか分からぬまま、慌てて布団から飛び起きると窓を開け、父の言うままに当時引き戸式だった大きな雨戸も開けた。


父は眉間にしわを寄せて、「何だこのにおいは!?」と言いながら、縁側で深呼吸をしていた。


私はこの時、父の「におい」という言葉を聞いて、先ほどのおならのことを言っているのだろうとうすうす気づいていたが、たかがおならごときで、何を大げさなことを言っているのだろうと不思議に思っていた。


そんな私の気持ちとは裏腹に、「ガスが漏れているのでは?」と話はますます深刻になって行き、母が台所まで確認に行って来たが異常はなかったとのことだった。


母は鼻をつまみながら戻って来て、黒柳徹子のものまね風に、「こりゃあ、ガスのにおいじゃないよ」とつぶやいた。


それはそうだろう、このにおいの原因は恐らく私の尻の穴から放たれたおならなのだ。
都市ガスといっしょにしてもらっては困る。


私は必死に笑いをこらえながら、「ガスには違いないが、漏れている場所が違うんだよ」と両親に告白するべきか一瞬悩んだが、この深刻な状況の中で、一人バカみたいに爆笑してしまいそうな自分が怖くて、この時はまだだまっていることにした。


しかし、そうは言っても、私はたかがおなら一発が、こんな非常事態を引き起こすものか、この時はまだ半信半疑だった。


そこで私は、もう一度部屋に入って、そのにおいの正体が本当に自分のしたおならなのかどうかを、ちゃんと確かめることにした。


すると、窓側はそうでもないのだが、風下になる部屋の奥側に行くにつれ、何やら菜っ葉が腐ったような、何かが発酵したような、異様な香りが漂っていた。


それは、一般的なおならの香りとはほど遠い、得体の知れないにおいだった。


この狭い家のどこかに魔女がいて、大きな鍋で紫色のドロドロした謎の液体を煮込んでいるのではないかと疑いたくなって来る。
父が飛び起き、縁側で深呼吸したくなるのもよく分かるというものだ・・・・・・。

 

Photo_2

結局、私はこのにおいの正体が、自分のしたおならのにおいであるという確信は得られなかったが、この部屋の中のどこにも、そんなにおいが発生するものは見当たらなかった。


そして、唯一確かなこととして、私は先ほど事務的に熱いおならを一発放っているという、変えようもない事実だけが、誰もいない部屋の中にポツリと残ったのだった。


しかし、こんな強烈な毒ガスが、さっきまで小学生のぼうやの腹の中に入っていたなどとは、きっと誰も思うまい。


現実に両親の頭の中には、このにおいが「おならのにおいである」という選択肢はこれっぽちもないようで、これまでの会話の中にはおならの「お」の字も出て来ていない。


そこで私は、この異臭が自分のおならであることを、ほとぼりが冷めるまで黙っていることにした・・・・・・。


30分ほど換気をして、ようやくにおいが消え、「いったい、あのにおいは何だったんだ?」という疑問を残しながら、私たちは再び床に就いた。


しかし、困ったことに私は、10分もしないうちに、再びおならがしたくなった。
最初は我慢していたのだが、次第にガスが溜まって行き、下腹の張りが限界に達し、ついにそれは空気中に放出されてしまった。


ただ、先ほどと決定的に違うのは、「ブイ~~~ン!」などという、妙に甲高いおなららしからぬ音が、深夜の静まり返った部屋に響き渡ったことだ。


「窓を開けろーーっ!」という父の号令で、私たちは再び窓を開け、雨戸も開け、縁側に出て、綺麗な星空を眺めることになったのだった・・・・・・。


どうでもよいが、私が過去にした、くさいおならナンバーワンは、未だにこの時のおならである。
そして、恐らくこのおならを凌ぐほど強烈なにおいのするおならは、今後出る可能性は極めて低いものと思われる。


10代のころに凄い記録を出して、将来を期待されるものの、その後伸び悩むスポーツ選手がいると聞くが、私はその気持ちが少し分かった気がした・・・・・・。


(画像は上がノリウツギの花、下がキタマゴタケ)

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