昆虫博士と達人技
私は小さな頃から昆虫が好きだった。
特に小学生の頃は、ありとあらゆる昆虫を飼育していた。
しかし、なんでもかんでも捕まえて来て、飼育していたという訳ではなく、事前に昆虫の飼い方の図鑑を読んで、この昆虫を飼うにはどのくらいの大きさの飼育ケースが必要で、何匹くらいをいっしょに飼えるか。
そして、エサは何が必要で、それは簡単に入手出来るかといったことをちゃんと下調べをして、きちんと飼うための環境を整えてから、お目当ての昆虫を野原に捕まえに行っていた・・・・・・。
図鑑を読み込んでいたので、小学生とはいえ虫に関する知識はかなりのもので、難しい専門用語も知っていた。
しかし、私にとってはそれが専門用語であるという認識がなかったため、理科のテストの解答に専門用語を使って書いてしまったり、友人との会話で普通に専門用語を散りばめて話していたりで、自分が思っても見ないような所で周囲を困惑させていた。
このため、担任の先生やクラスメートたちからは、「昆虫博士」の称号をもらっていた・・・・・・。
何年生の時だったかは忘れたが、担任の先生がクラス全員に賞状を作って渡すというイベントがあって、何を表彰されるかは賞状をもらうまで分からないということになっていたのだが、クラスメートからは私のだけは「絶対、昆虫博士に決まっている」と、何日も前から「満場一致で決定!」と太鼓判を押してもらっていた。
そして実際に賞状をもらって見てみると、みんなの予想通り「昆虫博士で賞」と書かれており、なんだか事前に知らされていたようで、何の感動も覚えなかったのを、今でもはっきりと覚えている。
「俺は〇〇で賞だった」とか「私は〇〇で賞だったよ」と盛り上がっている友人たちが非常にうらやましかったが、クラスの中で「博士号」をもらったのは、どうやら私だけのようだったので、そこだけは自慢してもよかろう・・・・・・。
私が子供のころは近所にちょっとした空き地があって、原っぱや小さな雑木林がまだかろうじて点々と残っていた。
このため当時は様々な昆虫が近場に生息していた。
このため、当時は捕虫網を持って歩いている子供をよく見かけたものだが、開発が進んだ現在では、そんな光景は近所では全く見なくなってしまった。
なんとも寂しい限りである・・・・・・。
昆虫と身近に接する機会が減ったせいか、最近では昆虫を怖がる子供もよく見かける。
トンボが目の前をスーッと飛んで行っただけなのに、「うわ~ぁ!」と叫びながら、後ずさりしている小学生の男の子や、集合ポストになぜかアゲハチョウが止まっていたことがあって、それが怖くて郵便物を取れずに突っ立っている中学生の女の子もつい最近目撃した。
私の小学生時代には考えられないような光景である。
少なくとも私のクラスメートの男子たちは、「昆虫に興味がある」とか、「興味がない」というのはあったが、昆虫を怖がるという者は一人もいなかったと思う。
これがスズメバチや毛虫とかだったら、また話は別であるが・・・・・・。
そんな訳で、クラスメートの誰よりも、昆虫好きな小学生時代を過ごしていた私だが、唯一好きになれない昆虫がいた。
ゴキブリである。
ゴキブリは自宅という、最も身近な環境に生息している昆虫であるにもかかわらず、私にとってはハエと並んで何の魅力も感じない昆虫だった。
魅力がないだけなら放っておけばよいのだが、ゴキブリは何の前触れもなく人の前に現れ、高速移動からの突然の方向転換で我々を翻弄するのである。
その素早さと言ったら、まるで「赤い彗星のシャア」のごとくで、予測不可能な方向転換は正にニュータイプ、その驚異のスピードには恐怖すら感じさせられる・・・・・・。
ゴキブリは我々と同居しているにもかかわらず、人に害をもたらす昆虫ということで、発見と同時に退治しなくてはならない。
ところが、ゴキブリの登場はいつも唐突であるため、手元に殺虫スプレーなどあるはずがなく、大慌てで近くにある新聞紙や折込チラシを筒状に丸めて、ゴキブリと対峙することがほとんどである。
しかも、家族から「早く早く!」などとせかされて、慌てて作ろうとするため、うまく丸まらなくて途中から丸めなおしたり、丸めている最中に落としてしまい、また一から丸め直すこともしばしばあった。
そんなことをしているうちに、当のゴキブリはタンスの後ろなどに隠れてしまい、ようやく叩き棒が出来て臨戦態勢が整ったころには、どこに行ったのか分からなくなってしまっているのだ。
そんな訳でウチではゴキブリ用殺虫スプレーを買ってあるにもかかわらず、使う機会に恵まれず、常に新品の状態をキープしていた・・・・・・。
我家でゴキブリ用殺虫スプレーを使わない理由はじつはもう一つある。
ウチにはゴキブリ退治の達人がいたのである。
父はゴキブリを退治させたら右に出るものはいないというくらい、部屋に出現したゴキブリを確実に退治していた。
驚くべきことに勝率は100パーセントに限りなく近かった。
父のゴキブリ退治の方法は、ゴキブリが出現したのを確認すると、そっと立ち上がり、ゴキブリを刺激しないように、ゆっくりと平行移動を開始する。
そして、ゴキブリが止まる瞬間を見極めて、まるでカメレオンが舌を伸ばして獲物を捕らえるかのように、サッと右手を繰り出し、素早くゴキブリを捕らえるのだ。
そう、なんと父はゴキブリを素手で捕まえるのである。
父の右手には翅をつままれて、動けないゴキブリが足をバタつかせてもがいている。
その様子を見せられた私と母は、いつも「ギャァ~!」と絶叫しまくりながら、父から出来るだけ距離をとるのだ・・・・・・。
父曰く、「殺虫剤を取りに行ったり、叩き棒を作ったりしているうちにゴキブリはいなくなっちまう。さっさと手で捕まえた方が確実に退治出来るだろう」と言う。
ごもっとも、お説ごもっともなのだが、決して誰もがまね出来ることではない。
そもそも、ゴキブリを素手でつかんだりして、気持ち悪くはないのだろうか。
父は手を洗えばいいだけのことと言うが、そういう問題ではないと思う・・・・・・。
そして、ここからは更にまねを出来る人が激減すると思われるのだが、父は捕まえたゴキブリを紙に包んで捨てるのかと思いきや、何と何と、ゴキブリの頭をわざわざもぎ取ってから、紙に包んで捨てるのである。
もはや正気の沙汰とは思えない。
それを見せられた私と母は、狂ったように、「ギャ~、ギャ~!」と叫びまくることになるのは言うまでもない・・・・・・。
父が言うには、以前そのまま紙に包んで捨てようとしたら、逃げられてしまったことがあったそうで、それから頭をもいでから紙に包むことにしたのだとか。
私と母は「それはあまりにも残酷じゃないか」と言ったのだが、父は「頭をもがずに紙に包んだとしても、どうせ紙に包んだ後に潰すんだからいっしょだろ」と言う。
ごもっとも、お説ごもっともである。
殺虫スプレーを使おうが、叩き棒で叩こうが、頭をもぎ取ろうが、結局は結果は同じことになる。
父は「確実にやらなきゃ、俺たちが病気になるかもしれないんだぞ」と遠い目をしてつぶやいた。
私は我家のゴキブリ用殺虫スプレーは、当分新品のままだろうと思った・・・・・・。
(画像上は里山で今の時期よく出会うオオカマキリ、画像下は毎年彼岸の一週間前くらいから咲き出す彼岸花)
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