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2018年12月13日 (木)

トラディスカンティラアルビフローラ

Photo_3
私が20代の初めのころの話なのだが、ペットフードを買いに出かけようとしていたら、母に「ちょっとあんた、出かけるならコレ見て来てくれない?」とメモを差し出されたことがあった。


メモ用紙には「トラディスカンティラアルビフローラ」という謎の暗号が書かれていた。


私にとっては意味の分からない文字の羅列でしかなかったので、母に「これは何?」と単刀直入に聞いてみた。
すると「観葉植物だよ」という。


当時私がペットフードを買いに行っていた店は園芸店でもあったので、「ついでに見て来てよ」ということのようだ。
母はトラディス何とかの代金までよこしたので、どうやら私に「買って来い」ということらしい・・・・・・。


もう一度メモを見直してみるが、どうにも名前は覚えられそうにない。
そこで私はとりあえず自分なりに簡単に覚えておこうと思い、パッと目に付いた単語を適当に頭に入れた。


「トラとカンテラとアルマジロなら覚えられそうだな」と思い、「トラとカンテラとアルマジロ」を何度か頭の中で復唱した。


メモをもらっているので、別に暗記する必要などないのだが、名前を少しでも覚えておいた方が、陳列されている観葉植物の中から、お目当ての「トラと何とか」を探し出す時にスムーズに行くはずだと思ったのだ。


園芸店まではバスに乗っていくので、バス停までの道のりを無駄にしてはならぬと、「トラとカンテラとアルマジロ」を何度も念仏のように唱えながら歩いて行った。


きっと、傍目には怪しげな新興宗教の信者のように見えていたことだろう。


マントラでも唱えているのかと思いきや、よく聞けば「トラとカンテラとアルマジロ」などという、意味不明なことをブツブツとつぶやいているのである。


もしかしたら、道行く人には、「危ないやつ」と思われていたかもしれない。


まあ、何はともあれ、通報されることもなく、バスに乗ることが出来たのでよしとしよう。
そして15分ほどバスに揺られて、最寄のバス停に無事に到着した・・・・・・。


まずは「ペットフードを買う」という自分の用事を済ませてから園芸コーナーへ向かった。


観葉植物の売り場に行く途中、サボテンの売り場で魅力的なサボテンを見つけてしまい、しばし足止めされてしまうことになった。


ひとくちにサボテンと言っても、様々な形のものがある。
オーソドックスな丸い形状のものから、柱状のもの、ヒモ状のもの、ヘラ状のものなど、じつに多彩だ。


また、サボテンというと、トゲトゲのイメージを思い浮かべるかたが多いと思うが、トゲが全くない種類も意外と多い。


私のお気に入りはトゲの全くない草もちのような丸いサボテンだった。
丸いサボテンの多くは普通硬いものだが、草もちのようなサボテンはその見た目の通り軟らかくて、そこもまた私的には魅力だった。


しかし、残念なことに、この草もちサボテンは、あまりポピュラーではないらしく、置いている店が極端に少なかった。
そんなこともあって、たった3鉢の草もちサボテンを観賞するのに、何と40分もかかってしまった。


もっと見ていたかったが、さすがに40分の時間のロスは大きい。
今度暇な時にゆっくり見にこよう・・・・・・。

 

Photo_2


私は後ろ髪を引かれながら、観葉植物コーナーへ移動した。
観葉植物の売り場はサボテンの売り場の倍以上はあって、そこに大小様々な植物が置かれていた。


大きなものは鉢だけで私の膝ほどの高さがあって、そこに土が入っているので、とてもじゃないが抱えて持って帰ることは出来そうにない。


このでかいのが「トラと何とか」でないことを祈るのみだ。


ここには思っていたよりたくさんの観葉植物が置いてあって、この中から目的の「トラと何とか」をはたして探し出せるのか不安になる。


せっかく頑張って、「名前らしきもの」を覚えて来たのだが、この中から「トラと何とか」探し出すのは、どうやら至難の業のようだ。


名前も分かっていることだし、ここは店員に聞いてしまった方が早いだろう。


そう思って、私はカバンに手を突っ込んで、母から渡されたメモをゴソゴソと探し始めた。
ところがなぜかメモが見つからない。


「あれ、おかしいな」とカバンの中を引っ掻き回す。


焦って探しているので、カバンのどこにメモを入れたのかも思い出せず、闇雲にカバンの中をぐちゃぐちゃにして、どこに何があるのか余計分からなくしてしまう・・・・・・。


そして、それに追い討ちをかけるように、突然現れた店員が、「お客様、何かお探しでしょうか?」と声をかけて来た。


「今、取り込み中だから、あっちに行け、しっ、しっ!」といいたい気持ちをグッとこらえて、とりあえず、「は、はあ・・・」とだけ答えておく。


店員はそれを察したのか、「なにかありましたら声をかけていただければ、ご案内いたしますので・・・」と言い残し作業に戻っていった。


もの分かりのいい店員がいなくなり、ほっと一安心した私は、再びカバンの中にあるはずのメモを探し始めるが、いったいどこに行ってしまったのか一向に見つからない。


もしかして、落としてしまったのかとも思ったが、カバンから出した記憶のないメモを落とすはずがない・・・・・・。


いくら探しても見つからないので、これはもう店員に聞くしかなさそうだ。
ここに来る前に名前を暗記しておいて正解だった。


いや、正確には暗記ではない。
「それっぽいことを、何となく覚えて来た」に過ぎない。


しかし、何も手がかりがないよりはいい。
「ええと、トラとカンテラとアルマジロだったよな」と自分に再度確認する。


「トラとカンテラとアルマジロ?」


絶対に違うなということはよく分かっていたが、メモが見つからない以上、今は「こんなニュアンスのもの」と伝えるしかないだろう。


私は意を決して、先ほどの人の良さそうな店員に、「あの、すみません」と声をかけた。
店員は「はい、何かお探しでしょうか?」と予想通りのことを聞いて来た。


もちろん、お探しのものがあるから、わざわざ声をかけたのだ。


「あの、観葉植物なんですが、名前をうっすらとしか覚えていなくて・・・」と、とりあえず正直に言ってみる。


すると、「一部分でも分かれば、お探し出来ると思いますよ」という。


しかし、当時の私はシャイだったので、堂々と「トラとカンテラとアルマジロという単語が入っていたような気がする」と、はっきりと言う事が出来ずにいた。


「どういう感じの名前でしたでしょうか?」と店員に促されて、私は仕方なく、「あの~、トラとカンテラって言うか、アルマジロ的な部分もあったような気がするんですが・・・」とモゾモゾと言った。


「お前はモジモジくんか!」と当時の私に一言突っ込んでやりたい気分でいっぱいだ。
そんな小声でモゾモゾと言っていたら、伝わるものも伝わらない。


そもそも、そんなバカバカしい名前の植物はこの世に存在していないのだ。


探している植物は、「こんなニュアンスの名前だったと思う」ということを伝えているにすぎないので、そこからあの難解な名前が導き出されて来る可能性は、極めて低いだろうな~と私は密かに予想していた。


だからこそ、そのニュアンスを正確に伝えなくてはならないのだが・・・・・・。


ところが・・・・・・だ。


店員は私のモゾモゾと話した言葉をちゃんと聞き取っていたようで、「トラとカンテラか・・・」と一瞬考えて、「ちょっとお待ち下さい」と足早に奥へ歩いて行った。


店員は1分もしないうちに戻って来ると、「恐らくこちらの植物ではないかと思うのですが」と、ハンギング仕立てになっている、斑入りの葉っぱが特徴的な植物を持って来た。


私は思わず、「え~~~!」と言ってしまいそうになり、慌てて口をつぐんだ。
まさか「トラとカンテラとアルマジロ」が通じるとは思っていなかったのだ。


店員は「こちらの植物はトラディスカンティラアルビフローラになりますね」と、「トラとカンテラとアルマジロ」の本名をペラペラと流暢に言ってのけた。


私は母からメモを受け取った時の記憶がよみがえったような気がして、「あ、そうです。それです、それです」と、反射的に答えていた。


店員は「確かにトラとカンテラとアルマジロっぽいですね~」と笑っていた。


そして、このハンギング仕立ての植物が、「トラとカンテラとアルマジロ」だと確定して、思っていたより小さくて片手で持って帰れることに私は内心ホッとしていた・・・・・・。


帰りのバスはガラガラで、余裕で座って帰ることが出来た。
ペットフードと「トラと何とか」を両手に持っていたので、座れるのはありがたかった。


バスに揺られて、脚に乗せていた荷物がずり落ちそうになり、それを元に戻そうと視線を下げた時、胸ポケットに気になるものを発見した。
それは二つ折りにたたまれたメモ用紙だった。


もはや、取り出して開いて見るまでもないだろう。
カバンの中をいくら引っ掻き回したって見つからない訳だ。


ま、結果オーライ、こうして、「トラと何とか」を無事に買えたんだし、よしとしよう・・・・・・。

 

(画像上は冬鳥のコガモ。画像下は紅葉の風景)

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