リンゴの当たり年
我が家では年末になると、母の田舎からお歳暮が次々と届く。
田舎から送られて来るお歳暮というのは、「店頭やカタログで商品を選んで発送してもらう」という型にはまったものではなくて、自分の家の畑で採れた野菜や果物、地域の特産品などを、自分で箱詰めして送って来る場合が多い。
私が子供の頃、年末に大きなリンゴの箱が届いたことがあって、「なんだろうね」と家族で顔を見合わせていたことがあった。
「リンゴの箱に入っているなら、リンゴに決まっているだろう」と思われるかたがほとんどだと思うが、田舎の親戚から送られて来る荷物というのは、前述の通り必ずしも箱と中身は一致しないのだ。
どこかで大きなリンゴの箱を調達して来て、中身は自分の家の畑で採れた野菜や果物を詰め込んで送って来ることも少なくない。
で、「何が入っているんだろう?」と、ドキドキしながら箱を開けてみたところ、中身は箱に書かれている通りのリンゴだった。
リンゴの箱を開けてリンゴが入っていれば、それは「期待通りの結果」ということになるし、リンゴの箱の中にいろんな野菜がゴロゴロ入っていれば、心のどこかでそんな結果を予想していた我々にしてみたら、それはそれで「想定通り」なのだ。
ただ、自分自身が「リンゴ」という結果を目の当たりにして、喜んでいるのか、残念がっているのかは、正直よく分からなかった・・・・・・。
で、中身がリンゴだったのはいいのだが、このリンゴの箱は普段ちょっと見ないくらいの大きさで、上から下までリンゴがびっしりと詰まっていたら、きっとかなりの量のリンゴが入っているに違いない。
普通、たった3人の家族構成の家に、リンゴを1箱も送って来るだろうか。
もしかして、どこか他と間違えて、うちにリンゴを送ってしまったのではないか。
それとも、リンゴは箱の上部に入っているだけで、リンゴを取り出したら、その下には違うものが詰められているのではないか。
現実に田舎から送られて来る荷物にはそういうことがよくあったのだ。
そこでそれを確かめようと、リンゴを1つずつテーブルの上に出して行ったのだが、リンゴの下には茶色い大きな紙がまるで仕切りのように1枚入っていて、その茶色い大きな紙を取り出すと、その下には薄い緩衝材が1枚入っていた。
そしてその緩衝材を取り出すと、その下にはなんとまたリンゴがびっしりと詰まっていた。
早い話が「大きなリンゴ箱の中身は全てリンゴ」という、一般的には至極当然の結果となってしまったのだった・・・・・・。
しかし、我が家では普段はリンゴなんて、1ヶ月に1~2回も食べればいい方で、1回に食べる量だって、1人1個も食べないのではないか。
そんな3人家族がリンゴを1箱も貰ったって、とても食べ切れる訳がない。
そもそもリンゴを買う時に箱で購入しようなんて人がはたしているのだろうか。
もしかして母の田舎では、「リンゴは箱買い」がスタンダードなのか・・・・・・。
「さてこの大量のリンゴをどうしたものか」と頭を抱えていたところ、それに追い打ちをかけるように、その翌日にまた別の親戚から大きなリンゴの箱が届いた。
私たちはお互い顔を見合わせながら、「まさか2日も続けて箱詰めのリンゴが届く訳がないよねぇ。きっと、中身は別の物だよ・・・」と、希望的観測をブツブツと念仏のように呟きながら、恐る恐るリンゴの箱を開けて中身を確認してみることにした。
すると大きなリンゴの箱の中には、またしても2段重ねの大きなリンゴがびっしりと詰まっていた。
私たちは大量のリンゴを前に思わず絶句するしかなかった・・・・・・。
昨日届いたリンゴだって、まだ1個も手を付けていないというのに、またしても大量のリンゴが我が家に襲来したのだ。
これを一大事と言わずして、何が一大事なのか。
下手をしたら、「朝、昼、晩の3食は当面リンゴ」なんてことになりかねない。
さっさとこの大量のリンゴをどうするべきか、知恵を絞らねばなるまい。
とは言うものの、そう簡単には妙案は浮かばず、またしてもリンゴには1個も手を付けぬまま、翌日を迎えることになった・・・・・・。
リンゴはとりあえず近所の人や、父の会社の人に少しずつ配ったのだが、段ボールで2箱もあるとなかなか減らない。
そしてその翌々日、またしても家のピンポンが鳴って、「宅配便で~す!」という大きな声が玄関から聞こえて来た。
なんだか嫌な予感がする。
いや、嫌な予感しかしないと言った方がいいかもしれない・・・・・・。
「また、リンゴじゃないだろうな」と思いながら、玄関に荷物を受け取りに行った母を居間でじっと待つ。
程なくして戻って来た母の手には、大きなリンゴの箱ではなくて、片手で持てるぐらいの小さな白い箱が2つ重ねられていた。
「パッ」と見た感じでは、ケーキがワンホール入るぐらいの大きさの箱だろうか。
私たちはとりあえず、リンゴの大きなダンボール箱でなくて「ホッ」としていた。
「二度あることは三度あるなんて言うけど、さすがに3箱目のリンゴはなかったねぇ」などと、家族で冗談を言いつつ、顔を見合わせて大笑いした・・・・・・。
それはそうと、テーブルの上に置かれたこの白い箱はいったいなんなのだろう。
持った感じはたいして重くはない。
宅配伝票を確認しても、品名には「食品」としか書かれていないので、中身がなんなのかまでは分からない。
食品ということは、賞味期限の問題もあるし、とりあえず開けてみようということになり、白い箱のふたを「カパッ!」と開けてみた。
すると中には白い箱にぴったりサイズのカラフルなデザインの箱が入っている。
白い外箱を押さえておいてもらい、中のカラフルの箱をゆっくりと引き抜いて行く。
ところが困ったことに、箱だけ見てもこれがなんなのかはさっぱり分からない。
そこで箱を開けて中身を確かめようと、箱の開け口に手を掛けると、脇に小さな白いシールが貼られていることに気付いた。
そして「品名」と書かれている部分を覗き込むと、なんと「アップルパイ」と書かれているではないか。
アップルパイ・・・・・・、日本語で言うなら、「リンゴの焼き菓子」である。
どうやら私たち家族はまだリンゴの呪縛から解き放たれてはいないようだ・・・・・・。
しかし、アップルパイならリンゴを使っているとは言え、生のリンゴを食べる訳ではないので、きっとケーキのような感覚でぺろりと平らげてしまえるだろう。
そこでさっそく食べてしまおうということになり、箱を開けて中身を引っ張り出して見ることにした。
すると中から出て来たアップルパイは、アップルパイらしからぬ形状の、背の高いドーム型をしていた。
私たちはアップルパイと言えば、平たいピザのような形のイメージしかなかったので、「これがアップルパイ?」と、ちょっと戸惑っていた。
箱からアップルパイを取り出すと、箱の底にこのアップルパイについて書かれている紙が入っていた。
紙に書かれている解説を読むと、「当店のアップルパイは、パイ生地の中にリンゴを丸ごと1個つつみ込んであります」と書かれていた。
リンゴが丸ごと1個つつみこんであるから、こんなUFOみたいな不思議な形をしていたのだ。
しかし、リンゴを丸ごと1個つつみこんであるということは、それはもはや「パイ」というよりは「リンゴ」に近いのではないか・・・・・・。
しかし、こんなに大きくては、とてもじゃないが1人では食べ切れそうにない。
そこで包丁を持って来て、とりあえず2つに切り分けてみることにした。
そしてアップルパイのドームの頂点におもむろに包丁を入れた瞬間、パイ生地は突如バラバラと崩壊して行き、中から飴色に染まった大きなリンゴが丸ごと1個現れて、テーブルの上で仁王立ちになっていた・・・・・・。
私の「パイ」というよりは、「リンゴ」に近いのではないかという予想は見事に的中した。
そして私たちはアップルパイを食べることも忘れ、「これ、もう1個あるんだよね・・・」と、まだ未開封の白い箱をしばし見つめていたのだった・・・・・・。
(画像上、道端でノジスミレが咲き始めた。画像下、春の山菜として有名なフキノトウ)
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