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2020年6月 8日 (月)

「昭和の商店街」薬局、肥後ずいき編

Photo_20200607095901

昭和の商店街にあった薬局は、なぜか店の入り口周辺に、やたらとたくさんの貼り紙が貼ってあった。


うちの近所にあった薬局は、店の前面がガラス張りになっていたのだが、外から店の中が見えないほど、大量の貼り紙がガラス面に貼ってあったものだ。


貼り紙と言っても、ポスターなどの印刷物ではなく、A4サイズほどの白い紙に、全て手書きで書かれたものだった。


そしてそれは遠目に見ると、まるで学校の教室の壁にズラリと貼り出されている習字のようにも見える。


実際に書かれている文字も、筆で書かれたような美しい書体で、それを先生が添削したかのように、文字の横に赤い二重丸が付けられたりもしていた。


そうは言っても、薬局の店先に習字を貼りだしてあった訳ではなくて、紙に書かれていた文字は全て「病名」や「症状」ばかりだった。


そして赤い二重丸については、添削してあるという訳ではなく、強調の意味で付けられていたようだ・・・・・・。


例えば白い一枚の紙に、「腰痛」と大きくたった二文字だけが書かれていた。


当時は日常的な光景で、たいして気にもしていなかったのだが、よくよく考えてみれば、これでは「腰痛」がどうしたのか、意味がさっぱり分からない。


そしてその他にも、「めまい」、「肩の痛み」、「目のかすみ」、「耳鳴り」、「疲れやすい」、「膝の痛み」、「手のしびれ」、「足がつる」など、数え上げたら切りがないほどの貼り紙が、びっしりと貼ってあったものだ。


また、中には「精力減退」、「子宝」なんてものまであった。


じっと見ていると暗示にかかって、なんだかこっちまで病気になりそうな文字ばかりなのだが、どうやらこれらの貼り紙には、「このような症状がある方はご相談ください」という意味があったらしい・・・・・・。


現在のドラックストアでは、商品棚に簡単な薬の効能と、価格が書かれたPOPが付けられていて、客はそれを見て自分で薬を選んでレジに持って行く。


ところが当時の薬局では、薬を買う時は先に店の人に症状を伝える。


するとそれに合った薬を、店の人がカウンターの中からいくつか出して来てくれて、どの薬が今の自分の症状に一番合うのか、説明を受けてから薬を買うようになっていた。


このため、「このような症状も相談してくれれば薬を出せますよ」ということを知ってもらうために、病名や症状を書いた貼り紙が貼ってあったのだろう・・・・・・。


ところで薬局の入り口の周辺に、ペタペタと貼られていた貼り紙の中に、唯一、病名や症状ではないことが書かれているものが一枚だけあった。


その貼り紙は店のガラス面の一番端っこに貼られていて、「肥後ずいき入荷しました」と書かれていた。


たくさん貼られている貼り紙の中で唯一の長文だった。


子供の頃は漢字が読めなかったので、意味がさっぱり分からなかったのだが、とりあえず何か商品が入荷したということが書かれていることは分かった。


「入荷しました」という漢字については、当時ブームになって、しばしば品薄になっていたファミコンで、何度も見て来ていたので、すでに学習済みだったのである。


世の中なにが役に立つか分からないといういい例だ・・・・・・。


Photo_20200607100001

ちなみに肝心の「肥後ずいき」に関しては、私は30過ぎまでそれがなんなのか全く知らずに生きて来た。


時代の流れで、昔ながらの薬局が近所から姿を消してしまい、「肥後ずいき入荷しました」という貼り紙を、日常的に見ることがなくなってしまったことが一番の原因だと思う。


ちなみに「肥後ずいき」というのは熊本の伝統工芸品で、日本ではかなり古い時代から、「大人のおもちゃ(性具)」として使われていたのだそう。


特に江戸時代には多くの記録が残されていて、あの「大奥」でも日常的に使われていたのだという・・・・・・。


「肥後ずいき」はハスイモの葉柄の皮をむいて、乾燥させたものが原料で、これを木綿の糸でしばって、「こけし型」や「リング型」に編み込んで作られている。


そして「肥後ずいき」ならではの特徴として、ハスイモに含まれる天然由来の成分サポニンが、男女の生殖器に刺激をもたらし、性的快感を与えると謳われている。


このため「肥後ずいき」というのは、男性用と女性用があって、昔から様々な形の物が作られているのだそう。


例えば今で言う「ディルド」のような形をした、女性が一人で使うタイプのものや、指にはめて女性が一人で使うリングタイプのもの、また、男性がペニスにすっぽりとかぶせて使うタイプのものや、ひも状のものをペニスにぐるぐると巻き付けて使うものなど、形は一つではなく色々あるようだ。


「大奥」では将軍のお相手が出来るのはほんの一握りで、大半の女性たちは自分の欲望は自分で処理するしかなかった。


このため江戸城に出入りできる業者から、「一人用」を購入し愛用していたと言う。


ちなみに男性用は全て性交時に使用するものだったらしい・・・・・・。


ところで江戸時代には今で言う、「大人のおもちゃ屋」がすでにあったそうだ。


両国にあった四ツ目屋という店が特に有名で、ここで「肥後ずいき」も普通に売られていたらしい。


また、四ツ目屋では媚薬も売られていたそうで、男性がペニスに塗ると長時間持続するという「長命丸」という薬や、粉薬を水で溶き性交直前に膣内に流し入れると、内部がかゆくはれて来て、強烈な快感が得られるという「女悦丸」という薬もあったらしい。


更に驚いてしまうのは、四ツ目屋では通信販売も行っていたそうで、大量のチラシを作って全国に配っていたという。


どのようにして料金を回収し、商品を届けていたのか詳細は不明だが、いつの時代も大人のおもちゃを対面方式で買うのには、抵抗がある人が多かったということなのか。


ところで両国にあったという四ツ目屋は、店内がかなり薄暗かったらしく、隣に誰かいても、顔もろくに見えないほどだったそうだ。


商品を買う時は店の奥にいる店主に声をかけて、商品を出して来てもらうシステムになっていたという。


顔を見られるのが恥ずかしいという客への配慮なのだろうが、さすがに商品を確認する時や、支払いをする時は、灯りを点けていたのだろう・・・・・・。


現代ほど性というものがオープンではなかった昭和の頃、人の往来が絶えない商店街の薬局で、白昼堂々と「肥後ずいき」が売られていたということは、後になって考えてみればかなり衝撃的である。


しかも、「肥後ずいき入荷しました」と貼り紙までしてあったということは、それぐらい需要がある商品だったということなのだろう。


現代に置き換えて考えてみれば、ドラックストアでディルドやバイブレーターが売られているようなものである。
そう考えると、「昭和ってやっぱりスゲー時代だったんだな~!」と思うのだ・・・・・・。


(画像上、里山の初夏を代表する花「ウツギ」、画像下、至る所に絡みついている「スイカズラ」)

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