窓に激突したコジュケイ
私が小学生の頃の話なのだが、ある日、学校から帰って来て、何気なく縁側を覗いて見たところ、隅の方に見慣れない大きな鳥かごが置いてあることに気付いた。
私は「え?」と思って、鳥かごの中をそっと覗き込んでみた。
すると中にはウズラのような体形をした見たこともないカラフルな鳥が入っていた。
当時の私の印象では、大きさはハトよりも少し大きく感じた。
私は「な、なんだコイツは・・・」と思わず絶句して、玄関前をほうきで掃いていた母に、「ねえねえ、縁側にいる鳥はなに?」と小走りに聞きに行った。
母はのん気なもので、「ああ、忘れてた」と言うと、昼に起きた事件についてゆっくりと語り始めた・・・・・・。
その日の昼下がり、母はお茶を飲みながら、テレビでサスペンスドラマを見ていたという。
するとなんの前触れもなく、窓ガラスが突然、「バン!」と大きな音を立てたのだという。
その時、母はサスペンスドラマの緊迫した場面に集中していたため、その大きな音に思わず飛び上がるほど仰天し、何者かが家の窓ガラスに発砲して来たんじゃないかと思い、身の危険を感じるほどの恐怖を感じていたという・・・・・・。
しかし、よくよく考えてみれば、こんな見るからに金目の物が何もなさそうな家に、わざわざ拳銃を向けるような、バカなことをするやつはいないだろう。
そこで母はカーテンに身を隠しながら、恐る恐る窓の外をチラリと覗いて見たという。
気分的には物陰に身を隠しながら、拳銃を片手に周囲をチラチラとうかがっている刑事といったところか。
あたりに怪しい人物は特に見当たらなかったので、安心した母はとりあえず外に出て、音の原因を探ってみることにした。
そして外に出ようと窓をガラリと開けたところ、縁側の上に横たわるあのカラフルな鳥を発見したのだという。
母が言うには、「最初見た時はピクリとも動かないので死んでいると思った」そうだ。
一瞬、「撃たれたのはこの鳥か!?」と、まだサスペンスドラマを引きずっていたが、どうやら周囲の状況から見て、あの「バン!」という大きな音は、この鳥がうちの窓ガラスに激突した時の音らしい・・・・・・。
母は縁側に横たわる鳥をかわいそうに思って、物入れにしまってあった大きな鳥かごを取り出して来ると、セキセイインコ用のエサと水をセットしてから、横たわっている鳥を抱き上げて、かごの中に入れて様子を見ることにした。
鳥は相変わらず、ぐったりと横たわったままだったが、抱き上げた時はまだ温かかったそうで、「もしかしたら生きているかもしれない」と思ったという。
そして鳥が目覚めたのは、「その一時間後ぐらいだと思う」とのことだった。
しかし、その時点では、座ったまま立ち上がることはなく、「ボー」っとあたりを見回していて、どうやら脳震盪を起こしているようだったという。
母は私と一緒にかごの中を動き回るカラフルな鳥を見つめながら、「あの時は骨折して歩けないんじゃないかと心配してたけど大丈夫そうだねぇ」とホッとした様子だった・・・・・・。
私は突然うちの縁側に現れたこのカラフルな鳥がかわいく思えて来て、母に「飼いたい!」と言ったのだが、「バカ言ってんじゃないよ!あんなバカでかい鳴き声で鳴かれたら、近所から苦情が来るよ!」と即答して来た。
今のところ、このカラフルな鳥は、出会ってから一度も声を発しておらず、なんとも大人しいものである。
私にはこの鳥がそんなやかましい鳴き声を発するなんて、ちょっと信じられなくて、母にこの鳥はどんな鳴き声で鳴くのかと聞いてみた。
すると母は、「なに言ってんの~!お前もしょっちゅう聞いてるでしょ?ピッコロホイ!ピッコロホイ!ってさ」と、私がこの鳥を知らないことを意外な様子だった。
母は「ピッコロホイ」と言っていたが、一般的には「チョットコイ」と聞きなされることが多いその鳥の鳴き声は、コジュケイと言う野鳥のものだった。
当時コジュケイは早朝から大きくよく通る声で、「チョット~コイ!チョット~コイ!チョット~コイ!」とリズミカルに鳴いていた。
コジュケイはキジの仲間で、本州以南の冬に積雪のない暖かい地域に分布し、耕作地と雑木林が隣接しているような環境に好んで生息している。
コジュケイはもともとは、中国中南部原産の野鳥だったが、1920年頃に東京、神奈川などで放鳥され、狩猟の獲物とされて来た歴史がある。
私の出身地である神奈川県横浜市でも、昭和30年頃までは狩猟が普通に行われていたらしく、鉄砲をかついだ男性が、狩ったコジュケイの首を鷲掴みにして、カメラに向かってポーズしている白黒写真を何かの本でちらっと見たことがある。
写真の風景を見ると、周囲は谷戸地形が広がっていて、きっと相当な田舎の方なのだろうと思っていたのだが、撮影された場所の住所を見ると、なんとうちのすぐ近所で、それがまた衝撃であった・・・・・・。
私が子供の頃は近所には畑が多く、小さな雑木林もまだ点々と残っていたので、どうやらコジュケイが生きて行くには、最適な環境だったようだ。
しかし、コジュケイはちょっとした緑地や、緑の多い公園のような場所があれば、十分生きて行けるようである。
都市化が進んだ現在でもそのような場所が近くにあれば、コジュケイのけたたましい鳴き声を、今でも身近に聞くことが出来る・・・・・・。
ところでコジュケイは、「声はすれども姿は見えず」という鳥で、臆病な性格もあって、雑木林や藪の中を、身を隠しながら移動することが多く、開けた場所に堂々と現れることは稀である。
私も子供の頃は鳴き声だけは毎日のように聞いていたのだが、姿を見たことはそれまで一度もなかった。
大人になって里山歩きをするようになってからは、コジュケイの生態も少しずつ分かって来て、子供の頃は、「声はすれども姿は見えず」だったコジュケイが、意外と簡単に観察出来る野鳥だったことに気付いたのだった・・・・・・。
ところで、うちの縁側に横たわっていたあのコジュケイだが、どうやら飛んでいる最中に、窓ガラスを通り抜けられると思い込んだらしく、そのままの勢いで窓に激突して、その衝撃で気絶してしまったらしい。
当時住んでいた家の周りは木々が多かったので、それが窓ガラスに映りこんで、窓の向こう側にも、自分が飛んで来た方向と同じような環境が広がっていると勘違いしたようだ。
当時、母は「コジュケイという鳥はバカだから」と、口癖のように言っていたのだが、何を根拠にそのようなことを言っていたのか未だに謎である・・・・・・。
(画像上、土手で咲くホタルブクロの花。画像下、八重咲のドクダミの花)
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はじめまして。
何度も吹いてしまいました。特にお母様のコジュケイの鳴き声の表現が・・・(^^ゞ
現在コジュケイを7羽飼っていますが、確かに早朝からご近所に響き渡る鳴き声で、今のところ苦情はありませんが、あってもおかしくないかなと思っています。
又、覗かせて頂きます。(__*)
投稿: おだっこ | 2022年7月17日 (日) 12時37分
おだっこさん、こんにちは。
コジュケイってまるまるしててとってもかわいいですよね。
でも、かわいいけれどすごい鳴き声。
さすがにあの声を知ってしまうと、環境に恵まれていないと飼えないなと・・・・・・(笑)。
投稿: くろねこ管理人 | 2022年7月17日 (日) 17時19分