「謎フレーズ探偵」いっせーの1!④
「相手が立てる親指の数を当てるゲーム」は、ルールは全国共通なのに、なぜか日本各地に様々な掛け声が存在している。
そして最も一般的と思われる掛け声が、「いっせーの」、「いっせーのーせ」、「いっせーので」、「いっせっせ」などの、「いっせーの系」の掛け声なのだ。
そしてこれらはそのまま、重たい物を動かす時などに、「相手とタイミングを合わせる時の掛け声」としても使われている。
で、この「相手とタイミングを合わせる時の掛け声」は、調べてみると、日本のほとんどの地域で、前述の「いっせーの」、または「せーの」という掛け声が使われていることが分かる・・・・・・。
ところがどういう訳か、九州地方だけはこれが当てはまらず、ちょっと特殊なことになっているのだ。
例えば福岡県では、「いっせーの」や「せーの」に相当する掛け声は、「さんのーがーはい」となる。
神奈川県(横浜市)出身の私からしたら、「いったい何語なんだ?」と思わざるを得ない。
何回聞き直しても、とても日本語とは思えない。
恐らく「さんのーがーはい」の「はい」の部分は、「あなたもご一緒に!」的な「はい」なのだろう。
「いっせーのーせ」の「せ」に相当する部分と言えば分かりやすいだろうか・・・・・・。
しかし、それより前の、「さんのーがー」とはいったいどういう意味なのだろう。
じつはこれにはいくつかの説があるようだ。
まずはもともとは、「いちにのさんはい」だったのではないかという説。
「いちにのさんはい」は「さんはい」と短縮することもある。
ここからタイミングを取りやすいように、「さんのーがーはい」という言葉に変化していったのではないかという考え方だ・・・・・・。
2つ目の説は、「せーの」の語源でもあった、「賽の神(さいのかみ)」から変化していったのではないかとする説。
ちなみに前回も書いている通り、「賽の神」とは「道祖神」のことである。
前回ご紹介した「せーの」という掛け声は、「さいのかみ来い」→「せえのかみ来い」→「せーの来い」→「せーの」と変化していった。
「さんのーがーはい」の場合は、「さいのかみ来い」→「さいの来い」→「さんのー来い」→「さんのーがーはい」という流れで変化していったのではないかという考え方だ・・・・・・。
ところでこの福岡の方言と思われる「さんのーがーはい」だが、同じ九州でも他県に行くと、そのフレーズが少しずつ変化していて面白い。
例えば熊本県では、「せーのがさんはい」という掛け声に変わる。
なんだか言葉がより複雑になっているように感じるのだが、「せーのが」と「さんはい」に分けて考えると分かりやすい。
「せーのが」の「せーの」は言うまでもなく、「賽の神」のことだろう。
そして「さんはい」については、「いちにのさんはい」の「いちにの」を省略して、「さんはい」としたものだろう。
重たい物を動かすために、「賽の神」の力を借りたいので、「さいのかみ来い(せーの)」。
そしてそれに、タイミングを合わせる時の、「さんはい」をプラスした掛け声ということになるのではないだろうか・・・・・・。
そしてこれが鹿児島県に行くと、「いっちゃのーがーせい」という掛け声に変化する。
もはや何かの呪文のようだが、「いっちゃのーがーせい」を分かりやすく言い換えると、「いっせーのーがーせい」となるそうだ。
「いっせーのーがー」の部分は、言うまでもなく、「いっせーの」の掛け声から来ていることは間違いないだろう・・・・・・。
では、「せい」とはいったいなんのことか。
これまでの例から見ても、「せい」は「賽の神」のことではないだろうか。
「賽の神」は「せえのかみ」と訛ることもある。
「せえ」が「せい」に変化したとしても、何ら不思議ではない・・・・・・。
「せい」が「賽の神」を指しているとするなら、「いっせーのーがーせい」の意味としては、タイミングを合わせる「いっせーの」という掛け声と、重たい物を動かすのに、「賽の神の力を借りたい」という意味の、「さいのかみ来い」が合わさった言葉ということになるのではないだろうか。
そして日本の多くの地域では、重たい物を動かす時などに、「相手とタイミングを合わせる時の掛け声」が、そっくりそのまま、「相手が立てる親指の数を当てるゲーム」の掛け声になっているのだが、今回ご紹介して来たこれらの掛け声は、なぜかそれに当てはまらないのである・・・・・・。
さて、ここで本題である、「相手が立てる親指の数を当てるゲーム」に話を戻そう。
じつはこのゲームのルーツを探って行くと、1600年頃にはすでに行われていたとされる、中国の「本拳(ほんけん)」がその起源ではないかと考えられているようだ。
日本には18世紀頃、およそ300年前に、長崎県に伝来したと言われている。
そしてこれが各地に広まって行き、少しずつ形を変えながら、最終的に「相手が立てる親指の数を当てるゲーム」になったと考えられている。
ところがどういう訳か、私の知り合いの長崎県人数名に、「相手が立てる親指の数を当てるゲーム」について話を聞いてみると、みんな口をそろえて、「子供の頃は知らなかったので、遊んだことがなかった」というのだ。
(ちなみにこれについては、昭和50~60年代に子供だった人たちに話を聞いている)
最初に「本拳」が伝来した長崎県に、親指のゲームが定着していないというのも、なんだか不思議な話である・・・・・・。
そして調べてみると、長崎県に限らず、どうも九州地方では、このゲームは局所的にしか広まっていないようなのだ。
これはいったいどうしてなのだろう。
親指のゲームの原形は、長崎発で各地に広まって行ったものの、日本で改良されて完成形となった親指のゲームは、出発地点まで戻って来ることはなかったということだろうか。
「相手とタイミングを合わせる時の掛け声」といい、九州地方はちょっと独特のようである・・・・・・。
(画像上、毎年撮影している桃色の椿が見頃になった・・・・・・。画像下、マンサクの花はそろそろ終盤に・・・・・・)
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