小鳥屋さんと大納言
子供の頃はあちこちにあったのに、いつの間にか見かけなくなってしまった店というのが結構あるものだ。
例えば商店街にあった小鳥屋さんがそうである。
現在ではペットショップはあっても、飼い鳥の専門店というのは、あまり見かけなくなってしまった。
鳥好きの私としては、なんとも寂しい限りである・・・・・・。
昭和の頃、小鳥屋さんはなぜかどこの商店街に行っても、観賞魚の店と並んで立っていることが多く、どちらの店も子供たちでいつもにぎわっていた。
小鳥屋さんに入って、店内を一回りして来た子供たちは、その足で観賞魚の店も見に行くのが定番のコースになっていたので、この並びはもしかしたら、商店街の戦略の1つだったのかもしれない・・・・・・。
小鳥屋さんは店の軒先からすでにたくさんの鳥かごが置かれていて、店の外壁が見えないほどだった。
そして小鳥屋さんといえば、店先には必ずおしゃべりが得意な大型のインコやオウム、九官鳥などがいて、客引きの大役を任されていた。
当時は商店街で買い物中のお母さんや、店の前をたまたま通りかかった人たちが、ちょっと足を止めて、おしゃべりインコに、「こんにちは!」と声を掛けてくのが日常の光景になっていた・・・・・・。
何気なく声を掛けたおしゃべりインコが突然店主の声で、「このまえ坊ちゃんが来てましたよ!」などとしゃべり出し、「ええ~~~っ・・・⁉」と驚いているお母さんたちを、当時はよく見かけたものである。
大型のインコやオウムはとても頭がよく、ただものまねをするだけではなく、相手のしゃべり方や声色を真似たり、簡単な会話が出来る個体までいる・・・・・・。
また、店主と客が店先で会話をしているのを聞いていて、客の名前と顔を覚えてしまい、その客が歩いて来るのを見つけるたびに、「吉田さ~ん、吉田さ~ん!」などと、大声で呼びかけていることもあった。
吉田さんはおしゃべりインコに駆け寄って、「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ~!」と、真顔で抗議していたが、おしゃべりインコに、「吉田さん、今日のおやつはリンゴだよっ、いる?」などと畳みかけられて、思わず「プッ!」と吹き出してしまい、店先でおしゃべりインコといっしょに爆笑する羽目になるのだった。
ちなみにおしゃべりインコの笑い声は、店主の豪快な「ガハハ」という笑い声を真似ているので、余計にバカバカしく聞こえるらしく、吉田さんは思わず笑いのツボにはまってしまい、小鳥店の店先でおしゃべりインコといっしょに、涙を流しながら、腹を抱えて笑っていた。
きっと、傍から見たら、世にも奇妙な光景だったことだろう・・・・・・。
小鳥店で子供たちに特に人気だったのは、なんといってもセキセイインコだった。
セキセイインコは羽の色や模様の変化で、200種類以上の品種が作り出されているといわれていて、そのバラエティー豊かな品種の中から、自分の好きな色柄を選べることも、人気のひとつとなっていた。
店内に入るとセキセイインコは、店の奥の棚のほとんどを占めていて、きっちり品種ごとに分けてカゴに入れられて、展示販売されていた。
カゴには「オパーリン」や「ハルクイン」、「ウイング」や「レインボー」など、品種名のプレートが1つ1つ付けられていて、初めて見た時は、その数の多さにとても驚いたものである・・・・・・。
当時の私が特に印象に残った品種は、「大納言」というプレートが付けられている品種だった。
なぜかというと、他の品種は全て「オパーリン」とか、「ハルクイン」などのカタカナ表記なのに、「大納言」だけはドーンと大きく漢字表記で、ご丁寧にもふりがなまで付けられていたのだ。
子供の頃は「大納言」という言葉の意味も分からなかったので、単純に「なんでこれだけ漢字なんだろう?」とずっと思っていた。
ちなみに大納言の一般的な意味としては、律令制において、左大臣、右大臣、内大臣に続く4番目の官位のことを指している。
大納言は「大臣」に次ぐ身分に当たり、大臣、中納言らと政務に参与し、大臣不在の時はこれを代行していたといわれている。
一方、セキセイインコの品種としての大納言はというと、簡単に言うなら斑の一品種で、後頭、風切羽、尾羽に加え、胸にも大きく地色が出たものを指している。
これがどうして太政管の次官である「大納言」と繋がったのかはよく分からないが、個人的にはその斑の出方が、和装の着物のように見えて、その堂々とした佇まいが、まるで役人のように感じられたからではないかと勝手に想像している・・・・・・。
ところで、当時近所の和菓子屋には、「大納言」という名前の、大きな豆大福が売られていた。
そのこともあって、私はセキセイインコの品種としての「大納言」を初めて知った時、「なぜ、大福の名前を付けたんだろう?」と、まず疑問に思った。
そしてそれと同時に、品種名のプレートに書かれていたふりがなを見て、「あの大福は、だいなごんって読むのかぁ」と、その読み方を初めて知ることになったのだった。
世の中、何がどこで繋がっているか分からないものである・・・・・・。
(画像上、大きな白いお皿のような花を咲かせるタイサンボク・・・・・・。画像下、木の幹に溶け込む様子はまるで忍者のウンモンスズメ・・・・・・)
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