カットルボーン
▲「カットルボーン」はこのような箱に入って売られている。透明な窓からちょこっと見えているのが、いわゆるイカの甲になる・・・・・・。
私は子供の頃、生き物の飼い方の本を読むのが好きだった。
ある日、セキセイインコの飼い方が解説してある本を読んでいたところ、「セキセイインコには副食として、カットルボーンを与えた方がよい」と書かれていた。
「カットルボーン?」
初めて聞く言葉だった。
カットルボーンとはいったい何のことだろう・・・・・・。
一応、セキセイインコの飼育書にはカットルボーンの写真やイラストも載っていたのだが、当時子供だった私にとっては、「得体の知れない物体」としかいいようがなかった。
平たいボートのような形をしたそれは、私にはどう見ても人工物にしか見えず、セキセイインコの健康に必要な成分を固めた、煎餅のようなものだろうと、勝手に想像していた・・・・・・。
私はカットルボーンのことが気になって、後日、小鳥屋さんに実物を見に行った。
カットルボーンは平たい長方形の箱に入れて売られていて、パッケージにはセキセイインコの写真が使われていた。
箱を手に取って説明を読むと、「カットルボーン(イカの甲)」と書かれていた。
足の甲なら知っているが、イカの甲とはいったい何のことだろう・・・・・・。
そこで勇気を出して店のおやじに、カットルボーンのパッケージに書かれているイカの甲とはいったい何のことか聞いてみることにした。
すると店のおやじは、何ともあっさりと、「イカの骨のことだよ」というではないか。
「え?イカの骨?」
私はイカの骨といえば、半透明で細長~い、ふにゃふにゃのアレしか思いつかなかった。
それにこのカットルボーンは、これ自体がイカのような形をしていて、どこからどう見たって骨には見えない。
私の怪訝な表情から察したのか、店のおやじは、「そんなに気になるなら、魚屋さんに行って聞いてみなよ」とアドバイスをくれた。
そこで私はインコたちのさえずりに見送られながら魚屋へ向かった・・・・・・。
▲箱の中にはこのような物体が入っている。全く知識のない人にとっては、これがいったい何なのか想像もつかないだろう。ちなみに下の金具でカットルボーンをケージに固定する・・・・・・。
すると顔見知りの魚屋のおばちゃんが、「あら、くろねこくん、どうしたの?」と笑顔で迎えてくれた。
そこで事情を説明して、「カットルボーン=イカの甲」のことを聞いてみた。
するとおばちゃんは、「ああ、それはね、コウイカの骨のことだよ」と教えてくれた。
おばちゃんによると、ヤリイカやスルメイカと違って、コウイカの骨は硬いヘラ状をしていて、小鳥屋さんで売っていたカットルボーンが、正にイカの胴体の中に入っているのだという。
後日、母にコウイカを買って貰い、家で腹を割いてみたところ、本当にイカの甲が入っていて、半信半疑だった私は、「ええ~~~っ!」とびっくり仰天したものである・・・・・・。
ところでこのイカの甲だが、じつは貝殻の名残なのだそう。
というのも、イカの祖先は、なんと巻き貝だったというのだ。
かつては貝殻で守られていたイカだったが、現在の姿は貝殻の外に筋肉が露出し、逆にそれが貝殻を覆ってしまった状態になっている。
いったいどういう進化だったのか理解に苦しむところだ・・・・・・。
ところでこのイカの甲、ただの骨というわけではなくて、内部に小さな空間がたくさんあって、ここにガスを出し入れすることにより、浮力を調整しているといわれている。
これについては、現在のイカの姿になってから発達した器官のようだ・・・・・・。
で、謎が解けたところで、そもそもの話、何でこのイカの甲をセキセイインコに与えなければいけないのかである。
これについては、カルシウムの摂取や、イカの甲を囓ることによって、ストレスを解消するなどの効果があるようだ。
うちで飼っていたセキセイインコたちは、カットルボーンを入れるとすぐにガリガリと囓り始め、あっという間にうすっぺらにしてしまい、ケージの底にはカットルボーンを囓ったカスが山盛りになっていたものだ。
「せっかく買って来たんだから、少しは大事に食べてくれよ・・・」と、ひきつった笑みを浮かべずにはいられない、のどかな日曜日の昼さがりだった・・・・・・。








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