「刑事ドラマあるある」なんたる偶然
刑事ドラマと言うのは、数々の偶然のもとに成り立っていると言っても過言ではない。
例えば朝いつものように起きて来て、寝ぼけ眼を擦りながら、家族に「おはよう」と声をかける。
そしていつもの自分の定位置に腰かけて、何気なくテレビのリモコンを手に取ってテレビを点ける。
するとテレビではアナウンサーが、「今、入って来たニュースです」と速報のニュースを読み始める。
「〇〇県△△市の山林で男性の絞殺死体が発見されました。被害者は市内在住のナントカカントカさん40歳で・・・」と、アナウンサーは淡々と原稿を読み進めて行く。
最初は納豆をかき混ぜながら、耳だけでなんとなくニュースを聞いていた主人公だが、被害者の名前を聞いた途端、「ナントカ カントカだって⁉」と、血相を変えてテレビに釘付けになる。
そしてテレビには「ナントカ カントカさん(40)」と被害者の顔写真が映し出されており、主人公は自分の知っている「ナントカ カントカさん」であることを知り、「なんてこった・・・」と驚くと同時に落胆するのである。
しかし、このことが事件のきっかけとなり、主人公の心に火が灯され、この物語が静かに動き始めることは、もはや言うまでもないだろう・・・・・・。
ところでこれは、主人公の側に起きた「偶然」だが、刑事ドラマでは犯人の側に起きる「偶然」というのも結構ある。
例えば過去に親や兄弟姉妹、妻や子供を殺された人がいたとする。
しかし、犯人は目撃者がいなかったり、証拠がなかったことから、罪に問われることはなく、今も平然とどこかで暮らしている。
そして被害者は日々の生活に追われ、その時の記憶も頭の片隅に追いやられて、思い出すことも少なくなって行く。
ところがそんなある日、彼は街で偶然あの時の犯人を目撃することになるのである。
そしてそんな奴に限って、なんの苦労をすることもなく、裕福な暮らしを送っているものなのだ。
復讐という名の炎が彼の心に点火されるのはそんな時である。
そしてその瞬間から、彼は「犯人の素性」について徹底的に調べ始める。
そして周りの人の協力もあって、彼は犯人の職業や住居を特定することに成功する。
更にその時たまたま出ていた募集を見つけて、彼は犯人の屋敷や会社に従業員として入り込むことに成功するのだ。
しかも彼は、犯人に気に入られ、犯人のすぐそばで重要な仕事を任されるようになる。
これでようやく彼は、復讐のスタートラインに立ったことになる訳だ・・・・・・。
刑事ドラマの主人公というのは、どいう訳か事件の数日前に、これから事件に巻き込まれようとしている人に、偶然会っていることがよくある。
そしてそれは、何年も会っていなかった、昔の同僚だったり、高校時代の同級生だったりする。
街を歩いていて、偶然再会して、「あれ、もしかして、〇〇じゃないか?久しぶりだなぁ、元気だったか!」と肩をたたき合うこともあれば、偶然立ち寄った店で、親切に対応してくれた店員が、たまたまそうだったということもある。
そして、最もドラマチックな展開としては、これから事件に巻き込まれようとしている人が、「犯人になろうとしている人」だった場合だ。
最もその時点では、彼は主人公が刑事(または探偵)だとはつゆ知らず、自分がこれから起こす事件に主人公がかかわって来ようなどとは、これっぽっちも思ってはいないのである・・・・・・。
刑事ドラマでドラマチックな展開と言えば、「数奇な運命のいたずらが、彼らの人生の歯車を狂わせ始めたのだった」というナレーションが、そのことを代弁することがよくある。
例えば、「告白をした相手が、じつは生き別れになっていた妹だった」という展開がそうだ。
この場合、彼らはお互いが兄妹だと知らずに惹かれ合っていたことになる訳だ。
兄妹が再会出来たことはまあいいとして、その事実を知ってしまった以上、普通に考えたら彼らは恋人としての関係は解消せざるを得ないだろう。
ところで、このようなシュチュエーションの場合、彼らの心境としては、「どうせならそんな事実は一生知らずにいたかった」と思うものなのだろうか。
それとも恋人が兄または妹と分かった時点で、恋心は一気に冷めてしまうものなのだろうか。
また、このようなシチュエーションでは、更に踏み込んだ設定も考えられる。
恋人(兄)がすでに人を殺しており、じつはこの物語の犯人である場合だ。
彼らが兄妹であることは、物語の終盤まで明かされず、兄が犯人であると分かるタイミングに前後して、じつは自分たちが兄妹だったということも分かるのである。
刑事ドラマでは、「数奇な運命にもてあそばれる」という一言で片づけられることが多いが、きっと当人たちにとっては、その事実を知った瞬間、昼間なのに目の前が真っ暗になるほどの衝撃を受けているに違いない・・・・・・。
と言っても、これはあくまでも、ドラマの話であって、現実にはこんな話は、ないに等しいくらい稀である。
で、このシチュエーションを、現実的な話に置き換えてみたらどうだろう。
例えばたまたま入った風俗店で、「ミキです。今日はよろしくお願いします!」と、部屋で出迎えてくれた女の子が、よく見たら実の妹だったという展開などがそうである。
この場合は、お互いにびっくり仰天して、ただバツが悪いだけで済み、刑事ドラマのような哀しい展開には、間違っても発展しないのでまあいい。
ところがこれが、父と実の娘だったらどうだろう。
バツの悪さで言えば、兄と妹どころの話ではない。
ひょっとしたら、父の教育的指導が入り、ちょっとした口論に発展することがあるかもしれない。
しかし、どちらの立場でも、「お母さんに言うからね!」という、相手をひれ伏させる、決定的なセリフを切り出すことが出来ず、もどかしい思いをしなければならないのである。
これもある意味、「数奇な運命にもて遊ばれている」ということなのかもしれない。
このようなドラマチックな展開は、現実の世界にも潜んでいるということか・・・・・・。
(画像上、ムクゲは真夏に咲く、数少ない花の1つだ。画像下、カナブンは都市部の環境にも適応して生き残っている)
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